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2025年10月以降、多くの企業にとって避けては通れない最低賃金の大幅な引き上げが実施されます。人事・採用担当者の方々にとっては、人件費の増加という、待ったなしの経営課題に直面することを意味します。
しかし、この賃上げを単なるコスト負担として捉える必要はありません。視点を変えれば、従業員の処遇向上と業務効率化を一体で進める好機でもあります。適切な戦略を立てることで、組織全体の生産性向上につなげることが十分に可能です。
そこで注目したいのが「業務改善助成金」です。この制度は、賃上げに取り組む企業が設備投資や業務プロセスの見直しを行う際の強力な支援策として位置づけられています。
本記事では、この業務改善助成金を最大限に活用し、賃上げによる負担を企業成長への投資に転換するための具体的なノウハウを解説します。最大600万円の助成を得るための最適戦略から、申請時に見落としがちな注意点まで、人事担当者が知っておくべき重要な情報をまとめました。
目次
数ある国の支援策の中で、業務改善助成金が最低賃金引き上げに直面する企業にとって有効な支援策となっているのは、その制度設計に理由があります。この助成金は、単純に賃上げを後押しするだけではありません。「賃金の引き上げ」と「生産性向上への投資」を一体で支援するところに最大の特色があります。
具体的には、事業場で最も低い時間給で働く労働者の賃金(事業場内最低賃金)を30円以上引き上げることを前提に、その賃上げの原資を生み出すための業務効率化、例えば新しい機械設備の導入や業務フロー改善コンサルティングといった「未来への投資」にかかる費用の一部を国が助成する仕組みです。
自社がこの助成金を活用できるかどうか、まずは主要な要件から確認してみましょう。
中小企業・小規模事業者であることが基本条件です。業種別の基準は以下のとおりです。
さらに重要な要件として、賃金水準に関する条件があります。
この条件から分かるように、同制度はすでに高い水準の賃金を支払っている企業よりも、最低賃金に近い水準で賃金を設定している企業を主な支援対象としています。2025年10月の最低賃金改定により、これまで対象外だった企業もこの範囲に含まれる可能性があるため、改めて確認しておくべきでしょう。
賃上げの対象となるのは、正社員、パート、アルバイトといった雇用形態を問わず、事業場で最も低い賃金で働く労働者です。ただし、一つ条件があり、賃上げの計画を申請する時点で、雇用してから6ヶ月以上が経過している必要があります。入社直後の従業員は対象外となりますので注意が必要です。

業務改善助成金の活用において、その効果を最大化できるか、あるいは最小限に留めてしまうかを分ける重要な要素は「いつ賃上げを実施するか」というタイミングにあります。
答えは明確です。地域別最低賃金が改定される「前日」までに賃金の引き上げを完了させること。これが助成金を最大活用するための鉄則となります。
今回の改定では、各地域で目安を上回る大幅な引き上げになる一方、賃上げに対応する企業側の準備期間に配慮し、改定日を遅らせる地域が多くみられました。
尚、都道府県別の最低賃金の改定日については、こちらの記事に内容をまとめていますので併せてご確認ください。
この戦略の有効性を理解するために、賃上げを「改定前」と「改定後」に行った場合を比較してみます。
現行の地域別最低賃金が1,000円で、10月の改定で1,050円になるとします。ある企業が従業員の時給を1,000円から1,080円へ、80円引き上げる計画があるとしましょう。
つまり、同じ80円の賃上げでも、改定後に行うと義務として負担すべき50円分は完全に企業の持ち出しとなり、助成金の恩恵を最大限に受けることができません。改定前に計画的に賃上げを行うことで、本来義務となるはずだった引き上げ分も含めて助成の対象とし、企業の負担を最小限に抑えることが可能になるのです。
この戦略を実行するために、令和7年度の申請スケジュールを正確に把握しておく必要があります。
| 申請期間 | 賃金引き上げ期間 | |
|---|---|---|
| 第1期 | 令和7年4月14日~6月13日 | 令和7年5月1日~6月30日 |
| 第2期 | 令和7年6月14日~地域別最低賃金改定日の前日 | 令和7年7月1日~地域別最低賃金改定日の前日 |
最もコスト効率の高い戦略は、第2期の申請期間を活用し、地域別最低賃金の改定日が公示された後、その「前日」を期限として賃金の引き上げを完了させることです。
賃上げのタイミングと並んで、絶対に守らなければならないルールがあります。それは、助成金の対象となる設備投資は、必ず労働局からの「交付決定通知書」を受け取った後に行わなければならないという点です。
「申請したのだから、早めに設備を発注しておこう」「納期がかかるから先に契約だけ済ませておきたい」といった行動が、全てを台無しにしてしまいます。申請書を提出してから交付が決定されるまでには、通常1ヶ月から3ヶ月程度の審査期間を要します。この期間を待たずに発注・購入・契約した設備等は、たとえ計画書に記載したものであっても、一切助成の対象となりません。
計画的な申請準備はもちろんのこと、交付決定を「待つ」ことも、この助成金を活用する上で欠かせないプロセスです。

賃上げ計画を進める上で、人事担当者が最も知りたいのは「具体的にいくらの助成金が受けられるのか」という点でしょう。助成金の額は、企業の賃上げへの取り組みと、生産性向上のための投資額によって決まります。その計算構造は以下の2つのステップで理解できます。
まず、受け取れる助成金には上限があり、その上限額は「①いくら賃上げするか(賃上げコース)」と「②何人の賃金を引き上げるか(対象労働者数)」という2つの要素の組み合わせで決まります。
賃上げ額に応じて30円、45円、60円、90円のコースが設定されており、対象となる労働者数が多いほど、また賃上げ額が大きいほど、助成金の上限は高く設定されています。最大では600万円の上限額が適用されるケースもあります。
【助成上限額(一部抜粋)】
| 対象労働者数 | 30円コース | 45円コース | 60円コース | 90円コース |
|---|---|---|---|---|
| 1人 | 30万円 | 40万円 | 50万円 | 70万円 |
| 2~3人 | 60万円 | 80万円 | 100万円 | 130万円 |
| 4~6人 | 100万円 | 130万円 | 150万円 | 200万円 |
| 7~9人 | 150万円 | 200万円 | 230万円 | 300万円 |
| 10人以上 | 240万円 | 300万円 | 350万円 | 450万円 |
※上記は事業場規模30人以上の場合の例です。事業場規模30人未満の事業者や特例事業者には、より手厚い上限額が設定されています。
自社の賃上げ計画が、この表のどの区分に該当するのかを最初に確認することが、助成額を把握する第一歩となります。
次に、この上限額を元に、実際の支給額を計算します。支給額は、以下の計算式で算出された金額と、ステップ1で確認した上限額を比較し、いずれか低い方の金額となります。
支給額の計算対象 = 生産性向上にかかった設備投資等の費用 × 助成率
この計算式にある「助成率」は、賃上げ前の事業場内最低賃金の水準によって、以下のように定められています。
【ケーススタディ】飲食店での活用シミュレーション
具体的なイメージを持っていただくために、ある飲食店をモデルに助成金額を試算してみましょう。
1. 助成上限額の確認
まず、上記の助成上限額表を確認します。「45円コース」で対象労働者数が「4~6人」の区分に該当するため、このケースでの助成上限額は130万円となります。
2. 支給額の計算
次に、設備投資額に助成率を掛けて計算します。
賃上げ前の最低賃金が990円(1,000円未満)なので、助成率は「4/5」です。
3. 最終的な支給額の決定
最後に、ステップ1の上限額(130万円)と、ステップ2で算出した金額(120万円)を比較します。
この場合、「いずれか低い方」が適用されるため、支給される助成金額は120万円と確定します。
結果として、この飲食店は150万円の設備投資を、実質30万円の自己負担で行うことができ、同時に5人の従業員の賃上げを実現できることになります。

業務改善助成金は、賃上げによる人件費の増加を、それを上回る利益の創出によって吸収し、企業の成長へと繋げることを目的としています。そのため、助成の対象となるのは、明確に「生産性の向上」や「労働能率の増進」に貢献する設備投資やサービス導入に限定されます。
ここで言う「生産性向上投資」とは、単に新しい機材を導入することではありません。その投資によって、従業員の労働時間を短縮したり、より付加価値の高い業務に人材を再配置したりと、具体的な経営改善効果が見込めるものを指します。
以下に、賃上げの原資を生み出す投資の具体例を挙げます。
これらの投資は、目先のコスト削減だけでなく、従業員がより創造的で質の高い業務に集中できる環境を整え、長期的な企業の競争力強化に繋がります。
【一般事業者の注意点】対象外となる経費
生産性向上に繋がるものであっても、汎用性が高く、事業目的以外での使用と区別がつきにくい一部の品目は、原則として助成の対象外となります。申請時に計画に含めてしまわないよう、注意が必要です。
対象外となる主な経費
【条件合致なら有利】対象経費が拡大される「特例事業者」
一方で、特定の要件を満たす「特例事業者」に認定された場合、上記の対象外経費の一部も助成対象として認められるという、非常に有利な措置が設けられています。
特例事業者に該当するのは、主に以下のいずれかの要件を満たす場合です。
特に2つ目の「物価高騰等要件」は、近年の経済状況を鑑みると多くの企業が該当する可能性があります。この要件で特例事業者と認められた場合、通常の経費に加え、以下のものも助成対象となります。
自社が特例事業者の要件に該当しないか、申請前に必ず確認することをお勧めします。

業務改善助成金の申請は、周到な準備と正確な手続きが成功の鍵を握ります。ここでは、申請から受給までの全体像と、特に人事担当者が陥りがちな落とし穴について解説します。
助成金のプロセスは、大きく分けて以下の6つのステップで進行します。各段階で求められることを事前に把握し、計画的に進めることが重要です。
手続きの中でも、特に賃上げの実施方法については、以下の2点を必ず守る必要があります。
最後に、助成金全般に共通する、見落としがちですが致命的となりうる注意点を3つ挙げます。
令和7年度(2025年度)の「業務改善助成金」のご案内については厚生労働省の公式サイトも併せてご確認ください。
・厚生労働省「令和7年度業務改善助成金のご案内」
2025年10月に実施される最低賃金の引き上げは、多くの企業にとって避けることのできない経営課題です。しかし、この記事で解説してきた業務改善助成金は、この「義務」として課せられた変化を、組織の未来を築くための「戦略的投資」へと転換させる可能性を秘めています。
この制度の本質は、単なるコストの補填ではありません。従業員の待遇を改善しながら、同時に生産性の高い労働環境を整備し、企業の収益構造そのものを強化する。この好循環を生み出すことこそ、本制度を活用する最大の意義と言えるでしょう。
目前に迫る賃上げの負担を軽減するだけでなく、これを機に自社の業務プロセスを見つめ直し、競争力を高める絶好の機会として捉えること。それが、変化の時代を勝ち抜くための重要な一歩となるでしょう。
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