アルムナイ（出戻り）採用とは？メリット・デメリットや導入方法を徹底解説

人手不足が深刻化する日本では、企業の人材採用が年々難しくなっています。
そこで、新たな人材戦略として注目されているのが、「アルムナイ（出戻り）採用」です。
アルムナイ採用とは、過去にその企業で働いたことがある元従業員を再度雇用することを指し、労働市場の変動や人材不足の問題が顕著な今、企業の新たな人材確保の手段として注目されています。

本記事では、アルムナイ採用の概要やメリット・デメリット、導入方法などを詳しく解説します。
効果的な人材戦略を構築するためのヒントとなれば幸いです。

アルムナイ採用とは、企業を一度退職した元社員を再び雇用する採用手法を指します。

まずは、アルムナイ採用の基本について押さえましょう。

• アルムナイの意味と由来
• アルムナイ採用が導入される背景
• アルムナイ採用の種類
• 「カムバック採用」との相違点

それでは、以上の項目を詳しく解説していきます。

「アルムナイ」という言葉は、英語で「卒業生」や「同窓生」を意味し、その由来はラテン語の「養われた者」を意味する「alumnus」に遡ります。人事分野では、定年退職者以外の退職者を指す言葉として使われます。
アルムナイ制度は、欧米で発祥した取り組みであり、退職者を貴重な人材リソースとして捉え、退職後も連絡を保ちながら関係を継続し、組織化する取り組みとして広がっています。

アルムナイ採用が昨今注目されている背景には、日本社会の慢性的な人手不足があります。また、雇用の流動化が進み、若年層を中心に転職は一般的なものとなっており、退職者が再び企業に戻りやすい状況へと変化しています。
そこで、アルムナイ採用を導入する企業が増えているのです。

元社員を再雇用する「アルムナイ採用」は、以下の2種類に分けられます。

「アルムナイ採用」と同義で使われることの多い「カムバック採用」。どちらも元社員を再雇用する点では同じですが、目的が異なります。
アルムナイ採用は、長期的な視点で人材プールを形成し、退職者との関係づくりを行うのに対し、カムバック採用は、即時的なニーズに合わせ、迅速な人材確保へと働きかけます。
その時の状況によって使い分けることで、円滑に人材採用を進めることができるでしょう。

アルムナイ採用では、企業とアルムナイの双方にメリットがありますが、企業側のメリットは以下の3点が挙げられます。

• 即戦力の確保
• 企業へのロイヤルティ
• 組織の活性化

それでは、一つずつ解説していきます。

アルムナイ採用の一つの大きな利点は、即戦力の確保が可能な点です。
自社で働いた経験のある従業員がアルムナイとして再び入社すると、その企業文化や業務フローに慣れているため、一から教育や研修を実施する必要性が低く、即戦力として現場に配置することが可能なので、新入社員研修などのトレーニングコストを低減できます。また、新規採用時に比べ、求人広告の掲載費などを大きく抑えることができます。

結果的に採用の効率化と低コスト化を同時に実現することが可能です。つまり、タイムパフォーマンス、コストパフォーマンス共に非常に高い採用手法だと言えます。

アルムナイで再雇用された人材は、企業文化や価値観を理解しているため、企業に対して帰属意識を持っており、企業に対する信頼感や従業員ロイヤルティ(※)が高いと言えるでしょう。

他にも企業のミッションやビジョンに共感しているケースが多いので、組織内での摩擦が少なく、スムーズにチームに溶け込めるメリットがあります。
企業側も信頼の置ける人材が採用でき、人事の安定性が高まることで、組織全体のパフォーマンス向上に貢献できます。

※「従業員ロイヤルティ」…従業員の企業に対する忠誠心、誠実さ

他社や他業界などの外部でキャリアを積み、広い視野を持ったアルムナイは組織に新しい風を吹き込む存在になり得ます。自社を一度離れて、新しいスキルや業界知識、異なるビジネスプラクティスを学んでいます。それらの新しい経験や知見を自社に持ち帰ることで、組織内部に新たな視点をもたらし、組織活性化へとつなげることができるでしょう。
また、異なる企業文化を経験したことで、多様な働き方やコミュニケーションスタイルを受け入れ、組織の柔軟性を高めることができます。

アルムナイ採用には多くのメリットがありますが、一方で注意が必要なデメリットや注意点も存在します。

• 人事評価の正当性
• 職場の雰囲気への影響
• 採用プロセスの公平性

これらの点を考慮することで、アルムナイ採用をより効果的に進めることが可能です。

アルムナイで再雇用された社員と既存社員の給与や待遇のバランスを取ることは難しい課題と言えます。社外で経験を積んで新しいスキルを習得して戻ってきた場合、そのスキルや能力に見合った給与を支払う必要がありますが、既存社員の給与・待遇とあまりにかけ離れてしまうと軋轢を生む可能性があります。

また、外部で得た経験や知見に価値を見出さない風土がある場合、アルムナイの実力が正しく評価されず、不満へとつながる可能性があるので注意が必要です。
場合によっては、 全社員に公正な給与や待遇を提供するために、人事・評価・賃金制度の見直しを行いましょう。

中途退職者を同質的コミュニティーから外れた存在としてネガティブに捉える雰囲気があったり、他社での経験や新しい知見を受け入れない雰囲気があったりすると、チームの士気や業務の効率が下がる可能性があります。

また、アルムナイで再雇用された社員と既存社員との関係性の変化に注意を払いましょう。両者が、以前の同僚や上司・部下の関係であった場合、新たな上下関係や職務分担に戸惑いや不満を感じるかもしれません。
それぞれの意思を確認しながら人員配置を行い、適切なポジションを探していくことが必要です。

アルムナイ採用を実施することで、他の採用候補者や新入社員に不公平感を抱かせてしまう可能性があります。縁故入社と捉えられ、ネガティブな印象を抱かれる可能性も全くないわけではありません。

企業はアルムナイ採用のみに注力するのではなく、同時に多様な人材の採用を積極的に行いましょう。また、他の候補者に対する不公平感を避けるために、再雇用のプロセスを透明にし、公正な基準に則ってアルムナイ採用を行うことが大切です。

ここまでアルムナイ採用の概要やメリット・デメリットを説明してきましたが、実際にアルムナイ採用を導入する際のプロセスをご紹介します。

• アルムナイネットワークの構築
• 再雇用プロセスの整備
• コミュニケーション戦略
• アルムナイとの関係を維持・強化

それでは、効果的な方法や具体的なステップを踏まえて、詳しく解説します。

アルムナイ採用では、企業とアルムナイが定期的に交流できる仕組みづくりが大切です。
定期的にアルムナイ向けのニュースレターを発行したり、「アルムナイネットワーク」と呼ばれる退職者のコミュニティーをSNSなどで形成することで、アルムナイ同士はもちろん、既存社員も含めて自由かつ継続的に交流することができます。

前述の通り、近年ではソーシャルメディアの普及によって、企業と元社員との関係が維持しやすくなりました。アルムナイネットワークでは、再雇用したアルムナイが働いている様子や、社内の雰囲気、最新動向などの情報を定期的に提供すると良いでしょう。

アルムナイ採用を導入するにあたって、社内体制を整備することは、アルムナイが復帰してから力を遺憾なく発揮するために重要になります。

まずは、アルムナイ採用の背景や必要性を既存社員へ説明し、理解を得てから制度化へと移行するとスムーズに進むでしょう。

詳しくは以下の具体的な手順をご参考ください。

<具体的な手順>

1. 復職条件をあらかじめ決めておく
2. 多様な雇用形態を用意し、人事制度を整備する
3. 再雇用制度があることを社内外に周知する
4. アルムナイネットワークなどを利用して退職者向けに情報発信する
5. 退職者も参加できるイベントを案内・開催する

効果的なコミュニケーション戦略は、アルムナイ採用の成功に不可欠です。
元社員との円滑なコミュニケーションを維持することで、信頼関係を築き、再雇用時のスムーズな復帰を可能にします。
具体的には、定期的なニュースレターの配信や、企業の最新情報を共有するオンラインコミュニティ「アルムナイネットワーク」の構築が挙げられます。これにより、元社員に会社の動向や方針変更について最新情報を提供し続けることができます。元社員とのコミュニケーション戦略を継続的に強化し、長期的なリレーションシップを築くことが大切です。

ここで注意したい点は、アルムナイネットワークをいざ立ち上げ、再雇用だけを狙いすぎてしまうことです。「登録したら再入社をうながされるのでは」とアルムナイを警戒させることになるので気をつけましょう。

アルムナイ採用は、社員の退職時からすでに始まっていると言っても過言ではありません。社員の退職時には、以下の点に留意しながら、行動に移しましょう。

• 退職者に今までの働きに対して同僚や上司から感謝を伝える
• 「いつでも頼ってほしい」など退職後もつながりを持てるような声がけをする
• アルムナイ制度があることを案内する

企業は社員の退職を前向きに捉えて、退職者が気持ちよく卒業できるよう工夫しましょう。そうすることで、退職後も元社員は企業への愛着を持ち続け、再度同じ職場へ戻りやすい状況をつくることができます。退職者と連絡が取れるつながりをつくるだけでもプラスの影響があるので、ぜひ実践してみてください。

アルムナイ採用は単なる人材拡充に留まらず、組織の知識基盤を拡充し、競争力を強化するための重要な手段となります。企業はアルムナイ人材を活用することで、変化する市場環境に対応するための新たな知見を獲得し、持続的な成長を促すことができます。

アルムナイ採用の導入を検討している企業は、まずアルムナイネットワークの構築から始め、再雇用プロセスの整備とコミュニケーション戦略を策定しましょう。その際、人事評価の正当性や職場の雰囲気への影響をしっかり把握し、適切な対応を行うことで、アルムナイ採用を成功につなげることができるでしょう。
アルムナイが活躍する環境が構築できれば、現役社員も「退職後も戻って来られる」という安心感を得ることができ、企業全体に良い影響をもたらすでしょう。