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2025年8月の最新の公的統計(マクロデータ)と求人広告の掲載件数(ミクロデータ)を統合的に分析し、現在の採用市場で何が起きているのかを多角的に読み解きます。単なる数値の解説に留まらず、その背景にある企業の採用動向や求職者の意識の変化にまで踏み込みます。
売り手市場と言われ続けてきた採用市場ですが、その様相は少しずつ、しかし確実に変化し始めています。
目次
まずは、今回の分析から見えてきた採用市場の重要なポイントを3つに要約してお伝えします。
この章では、厚生労働省と総務省が発表した公的統計から、日本全体の労働市場が今どのような状況にあるのか、その大きな潮流を掴んでいきましょう。
厚生労働省によると、2025年8月の有効求人倍率(季節調整値※)は1.20倍となり、前月を0.02ポイント下回りました。これは、求職者100人に対して120件の求人がある状態を示しており、依然として求人数が求職者数を上回る「売り手市場」の圏内ではあります。しかし、有効求人数が前月比で1.0%減少する一方で、有効求職者数は0.7%増加しており、企業の求人意欲のわずかな低下と求職活動の活発化が同時に見て取れます。

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年8月分)について(有効求人倍率)」
特に注目すべきは、正社員有効求人倍率が1.00倍と、前月から0.02ポイント低下した点です。これは、正社員を希望する求職者1人に対して、求人がちょうど1件あるという、需要と供給が完全に拮抗した状態を示します。この数値は、企業の正社員採用に対する姿勢がより厳選傾向になっている可能性を示唆しており、今後の動向を注視すべき重要な指標と言えるでしょう。
総務省統計局が発表した労働力調査によると、8月の完全失業率(季節調整値)は2.6%となり、前月に比べて0.3ポイント上昇しました。5か月ぶりに悪化したことになり、労働市場の懸念材料として挙げられます。
興味深いのは、就業者数が前年同月比で20万人増加し37か月連続のプラスとなっているにもかかわらず、完全失業者数も同7万人増加(13か月ぶりの増加)している点です。これは、より良い条件を求めて自ら離職する「自発的離職者」の増加や、一部の業界における業績悪化に伴う「非自発的離職者」の増加が背景にあると推察されます。 いずれにせよ、これまで安定していた失業率が悪化したことは、労働市場の流動性が高まっていることの表れとも考えられます。
これらのマクロデータを総合すると、「人手不足感は依然として根強いものの、一部の過熱感は収まり、市場の潮目が変わりつつある」という仮説が浮かび上がってきます。
マクロな視点で市場の全体像を掴んだところで、次により解像度の高いミクロな視点、つまり企業が実際に出稿している「求人広告」のデータから、採用活動のリアルな実態を探っていきましょう。
2025年8月の求人広告掲載件数の全体計は、前年同月比で-4.9%となり、企業の採用活動が昨年と比較してやや落ち着きを見せていることが分かります。この変化を雇用形態別に見ると、より興味深い傾向が浮かび上がります。

出典:公益社団法人全国求人情報協会「求人広告掲載件数等集計結果(2025年8月分)」
| 雇用形態 | 2025年8月件数 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 正社員 | 1,299,099件 | -12.2% |
| アルバイト・パート | 820,296件 | +4.5% |
| 契約社員他 | 146,330件 | +23.3% |
正社員の求人が大幅に減少しているのに対し、アルバイト・パートの求人は増加を続けています。この背景には、先行き不透明な経済状況から人件費をコントロールしやすい非正規雇用で人員を確保しようとする企業の意図や、依然として人手不足が深刻なサービス業などにおいて、アルバイト・パートの採用ニーズが根強いことが考えられます。マクロ分析で見た「正社員有効求人倍率1.00倍」という数値を、ミクロな企業の動きが裏付けている格好です。
次に、職種別の動向を見てみましょう。採用ニーズが特定の分野に集中し、市場が二極化している様子が明確に見て取れます。
前年同月比で件数が大幅に「増加」した職種 TOP3
| 職種 | 前年同月比 | 分析・考察 |
|---|---|---|
| 専門(保育士・教員・講師等) | +87.9% | 少子化の中でも待機児童問題や教育への投資は継続。 構造的な人手不足が極めて深刻な領域。 |
| 建設・採掘 | +37.7% | 2024年問題以降も続く担い手不足。 インフラ維持や災害復旧など、社会に不可欠な需要が継続。 |
| 専門(金融・法務専門職) | +35.3% | M&Aや事業承継、コンプライアンス強化など、 高度な専門人材への需要が高まっていると推察。 |
前年同月比で件数が大幅に「減少」した職種 TOP3
| 職種 | 前年同月比 | 分析・考察 |
|---|---|---|
| 専門(IT技術者) | -28.5% | これまでの過熱気味だった採用バブルが落ち着き、 企業がIT投資をより厳選し始めた可能性。 |
| 事務 | -25.3% | DXやAI導入による業務効率化が進み、 定型的な事務作業の求人が減少していると見られる。 |
| 生産工程 | -19.6% | 一部の製造業における生産調整や、 海外への生産移管などの影響が考えられる。 |
このデータから分かるのは、社会インフラを支えるエッセンシャルワーカーや高度な専門職の採用ニーズは引き続き非常に高い一方で、これまで採用市場を牽引してきたIT技術者や、企業の効率化の影響を受けやすい事務職の採用が大きく抑制されているという実態です。
地域別に見ると、前年同月比でプラスとなったのは近畿(+2.0%)のみで、北海道・東北(-18.1%)、中四国(-18.3%)などを筆頭に、多くの地域で企業の採用活動が停滞気味であることが示されています。これは、地域ごとの経済回復のペースの違いが、企業の採用投資意欲に直結していることを物語っています。
ミクロ分析をまとめると、企業は採用活動において「選択と集中」を加速させていると結論付けられます。事業成長に不可欠な専門人材や、代替の効かないエッセンシャルワーカーには引き続き採用コストを投じる一方で、それ以外のポジションや、不採算事業に関連する採用は抑制する、というメリハリの効いた戦略にシフトしている可能性が高いでしょう。
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