Circumstance

Circumstance

採用事情
「期待していた若手から突然、退職届を出された」
「チームの要であるメンバーが辞めてしまい、現場が回らない」——
このような痛みを伴う現実に直面し、頭を抱える人事担当者や管理職の方は決して少なくありません。
実は、従業員の退職は「ある日突然」起こるわけではなく、多くの場合、日常の業務の中に何らかのサインが発せられています。しかし、表面的な退職サインだけを慌てて追いかけても離職は防げません。本当に重要なのは、サインの裏に隠された「ホンネの理由」を見抜き、組織に根付く「構造的な問題」に目を向けることです。
本記事では、単なる退職サインの解説に留まらず、隠された本当の理由を徹底解剖します。チームの現状を把握できる「退職危険度診断シート」をはじめ、原因別の具体的なアクションプラン、さらには会社の「離職体質」を根本から改善する組織的アプローチまでを網羅しました。優秀な人材の流出を防ぎ、強い組織を作るための「実践的ガイド」としてぜひご活用ください。
目次
退職を申し出てきた部下に対し、面談で理由を尋ねると「別の職種にチャレンジしたい」「家庭の事情で」といったポジティブな理由、あるいは引き止めにくい個人的な理由が返ってくることが少なくありません。しかし、これらの言葉をそのまま鵜呑みにして「個人の事情なら仕方がない」と片付けてしまうのは非常に危険です。
なぜなら、退職者が会社に伝える理由は「波風を立てずに辞めるための建前」であることが多く、その裏には組織の課題に直結する「本当の理由(ホンネ)」が隠されているからです。
エン・ジャパン株式会社が実施した「本当の退職理由に関する調査レポート(2024年版)」によると、実に54%の人が「退職時に会社に伝えなかった本当の理由がある」と回答しています。
実際に「会社に伝えた退職理由」と「本当の退職理由」を比較すると、そこには驚くべき乖離(ギャップ)が存在します。
会社に伝えた退職理由の1位は「別の職種にチャレンジしたい(22%)」、次いで「家庭の事情(21%)」でした。しかし、本当の退職理由を見てみると「別の職種にチャレンジしたい」はわずか6%、「家庭の事情」は3%へと激減します。これらは典型的な「建前」として使われていることが分かります。
一方で、会社に伝えなかった「本当の退職理由」の上位を占めたのは、以下のような会社や職場に対するネガティブな不満でした。

エン・ジャパン株式会社「本当の退職理由に関する調査レポート(2024年版)」
では、なぜ彼らは本当の理由を会社に伝えないのでしょうか。同調査によると、ホンネを隠した理由のトップは「話しても理解してもらえないと思ったから(46%)」、次いで「円満退社したかったから(45%)」となっています。
寄せられた具体的なエピソードを見ると、現場のリアルな実態が見えてきます。
ここから読み取れるのは、会社や上司に対する「諦め」と「自己防衛」の心理です。すでに心が離れてしまった段階の退職面談でホンネを引き出すことは極めて困難です。だからこそ、表面化する前の「退職サイン」にいち早く気づく必要があるのです。
ここまでのデータで明らかになった通り、退職の本当の理由は「個人の事情」ではなく、多くの場合「組織の課題」に根ざしています。これら複雑に絡み合う退職理由のホンネは、大きく以下の「4つのカテゴリ」に分類することができます。

重要なのは、これらは単独で発生するのではなく、複数の不満が積み重なって退職の引き金になるということです。「(3)人間関係が悪い」ことに加え、「(1)頑張っても評価されない」、さらに「上司に相談しても無駄だという諦め」が重なった時、部下はひっそりと退職を決意します。
次章では、部下が限界を迎える前に発している「危険な退職サイン」と、そこに紐づく原因を特定するための診断シートをご紹介します。
部下が退職を決断する前には、日常の業務や態度の中に必ずと言っていいほど「小さな変化(サイン)」が現れます。
まずは、ご自身のチームのメンバーや気になる部下の最近の行動を思い浮かべながら、以下の「退職危険度診断シート」でセルフチェックをしてみましょう。
【部下の「退職危険度」診断シート】
ここからは、それぞれのサインがどのような行動として現れるのか、そして「その行動の裏にどんな本当の理由が隠されているのか」を解説します。
以前は雑談に応じていたのに極端に口数が減った、チャットの返信が著しく遅くなった、あるいは逆に攻撃的なトーンで話すようになったなど、コミュニケーションに明らかな変化が生じます。挨拶をしても目を合わせなくなるケースも多々あります。
【このサインに隠された主な理由】
これまで真面目に出社していた社員の遅刻や早退が目立つようになる、あるいは「体調不良」や「私用」を理由とした急な有給休暇の取得が連続して増えるのは、非常にわかりやすい危険信号です。
【このサインに隠された主な理由】
以前は自分から積極的にアイデアを出したり、業務改善の提案をしてきたりした部下が、言われたことしかやらなくなる「指示待ち人間」になるケースです。会議での発言も極端に少なくなります。
【このサインに隠された主な理由】
同僚に対して会社の愚痴や批判をこぼすようになるのは不満が蓄積している証拠です。しかし、さらに危険なのは「これまで不満を言っていた人が、急に何も言わなくなる」ケースです。これは「悟りフェーズ(静かな退職)」と呼ばれ、すでに会社に見切りをつけている状態を指します。
【このサインに隠された主な理由】
1on1ミーティングや評価面談などで、「来期の目標」や「今後のキャリアプラン」について話題を振っても、言葉を濁したり、生返事で終わらせたりして興味を示さなくなります。
【このサインに隠された主な理由】
以前は参加していた社内の飲み会やランチ、全社イベントなどに、「プライベートの用事がある」といった理由で参加しなくなります。業務外での周囲との関わりを意図的に断とうとする行動です。
【このサインに隠された主な理由】
上司が指示したわけでもないのに、自分の担当業務の詳細なマニュアルを作り始めたり、引き継ぎ資料を整理し始めたりします。また、デスク周りの私物を少しずつ持ち帰るなど、目に見える形での「身辺整理」が始まります。
【このサインに隠された主な理由】
前章の診断シートで部下の「退職サイン」に気づき、その裏にある本当の原因(ホンネ)のあたりをつけることができたら、次は具体的な行動に移す番です。
ただし、「とりあえず飲み会に誘って話を聞く」「なんとなく励ます」といった場当たり的な対応では、部下の心を引き戻すことはできません。原因のカテゴリに合わせて適切なアプローチを行う必要があります。
また、このフェーズにおいて最も重要なのは、「現場の上司の対応力」だけに依存しないことです。「上司の個別アクション」と「人事部の組織的なサポート」という両輪を噛み合わせることで、初めて離職を防ぐ確固たる体制が築けます。

「今の仕事にやりがいを感じない」「このままこの業務を続けてスキルアップできるのか不安」といった仕事内容やキャリアに対する不満が原因の場合、本人の「成長意欲」と「業務のミスマッチ」を解消する必要があります。
「会社の将来性が見えない」「頑張っても正当に評価されない」「挑戦を許さない風土が合わない」といった、組織の根幹に対する不満が原因の場合です。上司としては耳が痛い内容ですが、真正面から向き合う姿勢が問われます。

本当の退職理由の第1位である「人間関係の悪化」。上司や同僚との相性、ハラスメントの放置などが該当します。この問題は、放置すれば離職だけでなく、メンタルヘルス不調といったより深刻な事態を招くため、迅速かつ慎重な対応が求められます。
ここまで退職サインの早期発見と対処法について解説してきましたが、現実には「気づいた時には手遅れだった」「面談をした段階で、すでに本人の退職の意思が固まり切っていた(転職先も決まっていた)」というケースも少なくありません。
優秀な社員から突然退職を告げられると、上司や人事は焦りから感情的な対応をしてしまいがちです。しかし、ここで誤った対応をとると、退職者とのトラブルに発展するだけでなく、残されたメンバーのモチベーションまで低下させてしまいます。
手遅れとなってしまった場合の「ダメージを最小限に抑え、次に繋げるための心得」をQ&A形式で解説します。
A. 原則として、無理な引き止めは推奨しません。本人の意思を尊重する姿勢が重要です。
退職を申し出た社員に対し、「給与を上げるから」「希望の部署へ異動させるから」といった条件提示(カウンターオファー)で慰留しようとするケースは多々あります。しかし、本人の決意が固い場合、これらは一時しのぎにしかなりません。
前述の通り、退職の「ホンネ」の多くは人間関係や企業風土など、条件面だけでは解決できない根深い問題にあります。仮に給与アップでその場は引き止められたとしても、根本的な不満が解消されない限り、半年〜1年後に再び離職してしまう確率が非常に高いのが実情です。
また、執拗な慰留は「退職引き止めハラスメント」としてSNSや口コミサイトで拡散され、企業ブランドに傷をつけるリスクすらあります。
本人の意思が固いと判断した場合は、これまでの会社への貢献に感謝を伝え、本人の新たなチャレンジを応援・尊重する姿勢を示すことが、上司や人事の正しいスタンスです。

A. 誠実な「オフボーディング(退職者面談)」を実施し、退職理由のホンネを組織改善のデータとして活用してください。
退職が決まった途端に態度を急変させて冷たく接したり、退職日までの業務を過剰に押し付けたりするのは厳禁です。残された社員は「会社が辞めていく人にどう接するか」を冷静に観察しており、不誠実な対応は組織全体のエンゲージメント低下を招きます。最後まで円満退職に向けた誠実な手続きとサポートを心がけましょう。
そして、最も重要なアクションが「退職者面談」の実施です。
すでに退職が決まっている社員は、人事評価や上司の顔色を気にする必要がないため、在籍中には決して言えなかった「会社に対するホンネ(組織のリアルな課題)」を語ってくれる可能性が最も高い状態にあります。
こうした退職者のリアルな声を真摯にヒアリングし、個人の不満で終わらせず「組織の課題データ」として蓄積・分析すること。これこそが、痛手を学びに変え、次に続く「連鎖退職」を防ぐための最大の防波堤となります。なお、ホンネを引き出すためには、直属の上司ではなく、利害関係のない人事担当者がヒアリングを行うのが鉄則です。
ここまでは、現場の上司が退職サインにどう気づき、どう個別に対処すべきかという「対症療法」を中心に解説してきました。しかし、同じような理由での退職が後を絶たない場合、それはもはや個人の問題や現場のマネジメント不足だけが原因ではありません。組織全体に根付く「離職体質」そのものにメスを入れる必要があります。
ここからは、人事・経営層の皆様にぜひ実践していただきたい、離職が起こりにくい「強い組織」を作るための本質的な根本治療(組織的アプローチ)を3つのステップで解説します。
「最近、若手の退職が続いている気がする」といった感覚的な捉え方から脱却し、まずは事実に基づいたデータドリブンな現状把握を行うことが第一歩です。
前章で触れたオフボーディング(退職者面談)で得られた「本当の退職理由」をはじめ、退職者の所属部署、役職、在籍年数、評価ランクなどの属性をすべてデータ化し、蓄積します。これらをクロス分析することで、「入社3年目の離職率が異常に高い」「特定の部署(マネージャー)の下から退職者が続出している」「中途採用者の半年以内の離職が目立つ」といった、組織のどこに問題のボトルネックが潜んでいるのかを客観的に特定することができます。
退職データはあくまで「過去の結果」です。退職者が出てから慌てるのではなく、現在在籍している従業員の「声なき声(退職サインの予備軍)」をいち早く拾い上げ、未然に防ぐ仕組みを構築しなければなりません。
そこで有効なのが、組織の健康状態を定点観測するツールの導入です。
月に1回程度の短い質問で従業員のコンディションを測る「パルスサーベイ」や、「自分の会社を親しい知人や友人に勧めたいか?」という質問から組織への愛着度を数値化する「eNPS(従業員推奨度)」などが代表的です。
年1回の重たい従業員満足度調査ではなく、高頻度かつリアルタイムにエンゲージメントを観測することで、「先月までモチベーションが高かったAチームのスコアが急落している」といった異常にすぐ気づき、手遅れになる前に人事が介入できるようになります。
Step1とStep2で得られた客観的なデータや現場のホンネをもとに、いよいよ具体的な組織改善へと着手します。特定の個人の努力に依存するのではなく、会社の「仕組み」として以下のような制度や文化を見直していきます。
一度制度を作って終わりにするのではなく、施策を実行した後は再びStep2(組織診断)で効果を測定し、改善サイクル(PDCA)を回し続けること。この地道な取り組みこそが、会社の離職体質を劇的に改善し、優秀な人材が定着して活躍し続ける「強い組織」を生み出す唯一の道なのです。
「急に辞められてしまった」「最近の社員は定着しない」――。
従業員の退職に直面した際、このように「個人の問題」として片付けてしまうのは簡単です。しかし、本記事のデータでも明らかになった通り、退職の裏には必ずと言っていいほど「建前」に隠された「ホンネ(組織の課題)」が存在しています。
従業員が日常の業務や態度の中で発する些細な退職サインは、決して単なる個人の心変わりではありません。それは、人間関係の軋轢、不透明な評価制度、将来への不安、硬直化した企業風土など、組織全体が抱える構造的な問題に対して発せられた「SOS」なのです。
このSOSに応え、優秀な人材の流出を防ぐためには、決してどちらか一方の努力だけでは成り立ちません。
一つは、「サインを見逃さない現場のマネジメント」。上司が部下の小さな変化にいち早く気づき、真意を汲み取るための丁寧なコミュニケーション(1on1など)を行うことです。
そしてもう一つが、「根本原因を改善する人事・経営のサポート」。現場から吸い上げた声や退職データを客観的に分析し、会社全体の「離職体質」を仕組みから変革していくことです。
現場の「対症療法」と、人事の「根本治療」。この両輪がしっかりと噛み合って初めて、従業員は心理的安全性をもって働き続けることができ、企業は離職に揺るがない「強い組織」へと成長していくことができます。
退職サインへの対応に、「遅すぎる」ということはあっても「早すぎる」ということはありません。まずは本記事でご紹介した「退職危険度診断シート」で現状をチェックしたり、直近の退職データを振り返ったりと、明日からできる第一歩をぜひ踏み出してみてください。自社の隠れた課題から目を背けずに向き合うその行動が、組織の未来を大きく変えるはずです。
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