ビルメン採用現場の現状と課題について
まずは、ビルメン採用現場の現状と課題についてお話を伺いたいと思います。Hさん、実際に多くの求職者と接する中で、どのような課題を感じていらっしゃいますか?
日本の社会全体の問題とも重なる部分が多いのですが、やはりシニア層の採用に関する課題が一番大きいと感じています。業界では、警備や清掃の分野ではシニア層が活躍しており、その存在は周知されています。しかし、設備管理のような技術や資格が求められる分野では、60代などのシニア採用は非常に難しい状況です。
実際、就業意欲の高いシニア求職者が多く存在するにもかかわらず、積極採用している企業はまだ少なく、定年後も正社員あるいは契約社員として働きたいという要望と、企業側の求人枠との間にギャップがあると感じています。
企業側は、シニア層よりも若手の採用を重視する傾向があるのでしょうか?
そうですね。50代以上の方がすでに多く活躍している企業が多いので、どちらかというと、将来を見据えた後継人材の採用に力を入れている傾向があります。
なるほど。しかし、企業側のニーズが若手にあるとしても、実際には転職市場に若手の人材は少ないということですよね?
はい、若手は本当に少ないですね。少子化の影響もありますが、ビルメンテナンス業界となると、さらに厳しい状況が続いていると感じます。
そうなんですね。では、企業がシニア層にも目を向けることで、人材不足は多少なりとも緩和される可能性があるのでしょうか?
人手不足という点だけを見れば、その可能性はあると思います。ただし、シニア採用・活用が全ての企業の意向に合致するかどうかは、また別の問題ですね。
ありがとうございます。Mさんは求人原稿を制作する立場から、何か課題を感じていますか?
Hさんのお話に大いに共感します。本当にシニアの求職者が増えていて、「ビルメン転職ナビ」の応募者層を見ても、50代はもちろん、60歳以上の方も少なくありません。しかし、シニア層を受け入れる体制が十分に整っていない企業もまだあるように感じます。それが採用に至らない一因かもしれません。
求人原稿を作成する上で意識しているのは、定年年齢や再雇用制度について積極的に記載してもらうことです。例えば、70代以上でも働き続けられるのであれば、それは大きなアピールポイントになりますので、企業や営業担当に伝えるようにしています。
つまり、現状ではシニア人材が中心となりがちで、一方、若手人材の採用は難しいという現実があるのですね。
はい、もちろん若手求職者もポリテクセンターや職業訓練を通じて業界に入るケースはありますが、全体としてはシニア層の割合が圧倒的ですね。
企業としては未経験の若手育成枠の確保や待遇の見直しも含めた採用戦略が求められる一方、現状のシニア人材をどう活かすかにも注力しなければならない状況だと思います。
シニア層に焦点を当てた採用戦略の必要性が、今回の対談でも強く浮き彫りになりましたね。以降のテーマもこの視点を踏まえて議論を深めていきましょう。
ビルメン人材の離職理由や転職に求めるものとは?
続いてのテーマは『ビルメン人材の離職理由と転職に求めるもの』です。ところで当社の人材紹介部門では、ビルメン人材の割合はどの程度なのでしょうか?
現在、ビルメン人材の割合は約8割、最近では9割近くがビルメン関連の求職者の方ですね。ご紹介に至っている方も同様の割合です。
その中には、施工管理や電験の資格をお持ちの方も含まれているんですか?
それなら、もっと業界に特化した人材紹介であることをアピールした方が良いかもしれませんね(笑)。
では多くのビルメン業界志望者と接する中で、よく耳にする離職理由とはどのようなものでしょうか?
はい、離職理由で最も多いのは待遇面、特に給与改善と職場環境の改善に対する要望です。この業界の特徴として、資格を取得したタイミングで、より良い待遇の企業へ転職するという動きが活発ですね。
また、発注者側に近い、安定した系列会社の求人に惹かれる傾向もあります。下請け企業の場合、現場の安定性がなく、失注後に次の現場が見つからず離職に至るケースが多いです。さらに、年齢を重ねた方は特に夜勤の厳しさなど体力面を懸念され、日勤のみの仕事を求めるケースが増えています。
現場で安定性や安心感、そして待遇の良さが求められているということですね。Mさんは、求人原稿制作の面からその点をどのように反映させていますか?
はい、Hさんがおっしゃるように、独立系か系列系かは求職者にとって非常に重要なポイントだと思います。系列系であれば、グループ名やネームバリューをメインキャッチに大きく打ち出したり、安定性を重視する業界なので、そこを強調したりしています。
また、シニアの方など年齢を重ねると夜勤が辛くなるという声も考慮して、日勤の仕事であれば必ずキャッチコピーに入れたり、日勤と夜勤が混在するシフトの場合は、それぞれを分けて打ち出す方が良いといった提案もしています。
また、資格取得によるキャリアアップや、研修制度、受験費用の補助といった点も強調して、転職後の成長イメージをしっかりと伝えるように工夫しています。
つまり、求職者は『待遇の改善』と『現場の安定性』を大きなポイントにしているわけですね。
Hさんもおっしゃっていたように、特に未経験のシニア層は、十分な教育が整っていない職場だと、すぐに辞めざるを得ない状況に陥りがちです。そうした点も含め、企業側には安定した環境の提供が求められているということが分かりますね。
まさにその通りです。求職者が安心して長く働ける環境を提供することが大きな魅力となっています。
そのため、原稿作成では『給与』『安定性』『充実した研修制度』など、求職者が転職活動の際に重視するであろうポイントを的確に伝えることを心掛けています。
ビルメン人材の給与事情、求人情報でアピールすべきポイントは?
次のテーマは『ビルメン人材の給与事情と求人情報でアピールすべきポイント』です。実際、求職者の希望給与と企業側が提示する給与にどのような差があるのか、Hさん、教えていただけますか?
意外かもしれませんが、給与面でのミスマッチはそれほど多くありません。具体的な数字で言うと、求職者の希望年収はだいたい350万円から450万円くらいが多いですね。
シニア層の方は、正直400万円以上をあまり希望されない方が多いですが、20代後半から50代前半くらいまでの方だと、そのくらいのレンジになります。
意外と希望額は低めという印象ですね。Mさんはどう感じましたか?
私も最初にこの業界の給与水準を知ったときは、低いなと感じました。ただ、業界的にはそれが一般的な感覚なのかもしれません。
最近では新卒の初任給が30万円を超えるという話も聞きますが、それと比べると給与水準は低いというか、遅れているかもしれませんね。
客観的に見てもビルメンの仕事は大変で専門性も高いのに、給与水準があまり高くないというのは気になりますね。
求職者の方も、大体の相場はそのくらいだと認識しているようです。企業側もそれを踏まえて求人を出していますし、最終的な内定時の提示額もその程度なので、給与面での大きなミスマッチは起こりにくいです。
高収入を強く望むというよりは、安定性や専門的な仕事を安定して続けられるかどうかに重きを置いている方が多い印象ですね。
例えば、給与を突出して高く提示している会社もあると思いますが、そういった求人には人が集まりやすいのでしょうか?
給与が高いと、逆に「何か裏があるのでは?」と警戒する方も多いようです。「こんなに条件が良いなんて、何かさせられるんじゃないか?」と考えるのかもしれませんね。
高給をアピールするのであれば、なぜその給与額なのか、理由を明確に記載する必要があると思います。例えば、経営基盤が安定しているグループ会社であるとか。そういった理由付けがないと、ただ単に給与が高いとアピールしても効果は薄いと思います。
では、求人情報に給与を記載する際に、特に気をつけている点はありますか?
給与に関して言うと、この業界は手当の割合が大きい傾向がありますよね。
そうですね、基本給が少し低いイメージはありますね。
はい。そのため、基本給だけでなく、年収例や各種手当、資格手当なども明記するようにしています。こうすることで、就業後にどの程度の収入が期待できるか、求職者に具体的なイメージを持ってもらう狙いがあります。また、昇進や昇格だけでなく、福利厚生や休日、入社後の研修体制、OJTの流れなど、現場での具体的な勤務条件についても丁寧に記載しています。
給与以外の部分、例えば勤務条件や現場の規模、担当業務の内容なども、求職者は重要視しているようですが、人気のある条件はどんなものなのでしょうか?
人気の条件としては、安心感のある現場環境が挙げられます。例えば、病院はトラブルが多く責任も重いため、敬遠されがちですが、公共施設や大学、またはオフィスビルは安定しているという評価を受けています。都市部ではホテル系も増えており、系列会社など安定性の高い企業が好まれています。
さらに、求人情報では資格取得支援や入社後のOJT体制など、具体的なフォロー体制を示すことが重要です。こういった情報があると、『ここなら安心して長く働ける』という求職者の判断材料になりますね。
つまり、給与面はもちろんですが、業界特有の勤務条件や安心感、そして具体的な支援体制をしっかり伝えることが、求人情報を作成する上での大きなアピールポイントというわけですね。
その通りです。面談時にも『こちらは給与面だけでなく、資格支援や安定性など環境面も充実していますか?』とよく質問されますので、求人情報に反映することが非常に重要だと思います。
求人原稿では、数字だけでなく『どのように』それが実現されているか、具体的なエピソードや実績を添えて説得力を持たせるよう努めています。
業界の給与事情とともに、求職者が求める安心感や環境整備がしっかり伝わる求人情報作成が、今後の採用においてカギになるというお話、非常に参考になります。
成功事例と実践の工夫について
では、次のテーマ『成功事例と実践の工夫』です。まずHさんから、人材紹介でうまく入社に至った事例とその成功理由についてお聞かせください。
はい。少し年齢の高い67歳の方の紹介事例です。転職相談に来られたのは66歳の時で、遠隔監視の設備管理をされていました。遠隔監視というのは、複数のモニターを一箇所で集中監視する仕事なのですが、人手不足のため、24時間夜勤ありで3日連続勤務という状況で、年齢的にかなり負担を感じていらっしゃいました。70歳くらいまで働きたいという意欲はあるものの、このままでは続けられないということでご相談に来られました。ただ、当時弊社で扱っていた求人は、上限が65歳までというものがほとんどで、企業からの依頼もそういったものが多かったため、その時は相談のみで終わってしまいました。
しかし、数ヶ月後、あるビルメン会社様から急遽、資格を持つ人材が退職してしまい、今月中に採用したいので年齢は不問でいいから誰か紹介してほしいという連絡がありました。ちょうど電験三種という資格が必要で、以前ご相談に来られた方のことを思い出し、年齢不問だったので即連絡を取り、求人をご案内したところ、ぜひ受けたいとのことですぐに選考が進み、1週間ほどで内定が出て採用決定となりました。
この事例の成功要因としては、まず日勤のみの案件であったこと。そして、電験三種の資格を持っていればいいという条件だったこと。さらに、採用企業様が急いでいたため、年齢不問で求人を出されたことが早期採用に繋がったと思います。もちろん、たまたま弊社にその資格をお持ちの方が登録されていたというのも大きいです。採用側からすると、年齢不問という条件にすることで、比較的採用がしやすくなるということを改めて感じた事例でした。
日勤のみで、しかも急募という事情があったのですね。ちなみに、電験三種はよく聞きますが、取得が難しい資格なのでしょうか?
資格自体は、他のビルメン系の難しい資格のように実務経験が受験資格として必須というわけではありません。勉強さえすれば誰でも受験できます。合格自体は難易度が高いと思いますが、ビルメン業界では比較的取得しやすい上位資格という位置付けですね。
続いて、Mさん。求人原稿制作担当として、成功につながった原稿作成の工夫や具体例があれば教えていただけますか?
はい、最近の事例で、毎月コンスタントに3~4件の応募が続いているホテルの募集があります。この案件は、ネームバリューのあるホテルで、施設の写真や勤務場所のイメージをしっかり伝えることができた点が大きかったと思います。また、経験者募集と記載していますが、事前に経験年数をヒアリングし、「経験年数は不問です」という一言を入れるように心がけ、少しでも間口を広げるようにしました。
それと、どの原稿でも気をつけていることですが、求人検索エンジンからの流入は非常に大きいため、SEO対策は意識しています。ビルメン業界は、資格名で検索して仕事を探す求職者が多いと思うので、具体的な資格名は必ず入れるようにしています。例えば、略称で検索する方もいるので、電気工事士であれば「第二種電気工事士」と記載し、別の箇所には「電工2種」と書いたりするなど、キーワードを散りばめるようにしています。あとは、求職者が求めるであろう「常駐」というキーワードをきちんと明記したりすることも重要です。
求人原稿に数字や具体的な勤務条件、資格名をしっかり記載することで、求職者が『ここなら安心して働ける』という実感を持てるようにしているということですね。
その通りです。また、写真の訴求力も、応募数を安定させる大きな要因だと思います。今後、写真だけではなく、動画の活用なども広がっていくかもしれませんね。
ありがとうございます。Hさんからは、資格の有無や経験値が採用にどのように影響しているかのお話もありましたが、例えば、資格を持っているものの未経験の方については、どのような傾向がありますか?
実際、経験だけあって資格を全く持たない候補者はほとんどおらず、逆に資格はあるけれど未経験という方は一定数います。ただ、企業の採用ニーズとしては、若手であれば未経験でも育成するケースが見られますが、系列系の場合は資格が必須の傾向が強く、間口は広がりにくいです。
成功事例から見ると、企業側が年齢や資格の制約を柔軟に変更したことや、求人情報で具体的な勤務条件・環境をしっかり伝えている点が、採用成功の鍵となっているようですね。今日お話しいただいた事例と工夫は、今後の求人戦略の参考になる貴重な情報ではないでしょうか。
今後の採用戦略と展望について
最後に「今後の採用戦略と展望」についてお伺いします。今後、ビルメン人材をうまく採用していくためには、企業としてはどのような取り組みをしていくのが良いとお考えでしょうか?人材紹介の立場から、Hさんのご意見をお聞かせください。
労働市場全体の課題として、少子高齢化と人口減少による労働力不足は避けられない状況です。そのような中で、各企業が求める人材のハードルはますます高くなっています。ずっと同じ条件で、経験豊富な有資格者の30代~40代をターゲットに募集を続けていても、なかなか採用は難しいでしょう。
そこで、私たち人材紹介部門にできることとしては、常に求職者の方々と接している立場から、求職者の状況や思いを直接採用担当者の方にお伝えし、募集ターゲットを少しでも広げていただくきっかけを作ることだと考えています。また、同業他社さんの成功事例など、私たちしか持ち得ない情報を提供することで、待遇面や福利厚生の見せ方を工夫していただくお手伝いをすることも重要です。待遇そのものをすぐに変えるのは難しいかもしれませんが、見せ方を工夫するだけでも、より多くの雇用機会を創出できる可能性があると考えています。
そういった提案に対して、企業側は耳を傾けてくれますか?
はい、やはり採用難の状況なので、多くの企業が関心を持っています。内定を出しても他社に流れてしまうケースも少なくないため、他社がどのような条件で募集しているのか、給与水準はどうなっているのかといった情報を積極的に聞いてこられます。そういった情報を提供することで、条件を見直していただくことも増えてきました。
他に、企業がこのようなことをすれば、もう少し人が集まるのではないかと思われることはありますか?
すでに実施されている企業もありますが、面接後のフォローアップは非常に重要だと思います。内定を出した後、個別に時間を取って、入社時点での待遇だけでなく、入社後のキャリアアップの可能性や、挑戦できる仕事の内容などを具体的に伝えることで、求職者の入社意欲を高めることができると思います。内定を出してから、改めて条件面や将来の展望について話し合う「内定後面談」を実施している企業は、求職者にも響くのではないでしょうか。例えば、希望年収に届かなかったとしても、入社後の昇給やキャリアアップの道筋を示すことで、納得感を得られるかもしれません。
それは早期離職を防ぐための取り組みというよりは、内定承諾を得るための対策ということですね。
はい、まさにそうです。現在、一社しか選考を受けていないというケースはほとんどなく、多くの方が複数社から内定を得ています。その中で自社を選んでもらうためには、選考段階からの丁寧なコミュニケーションが重要だと思います。ビルメン業界には、少しドライな体質の企業もまだあるように感じますが、求職者もそういった企業の姿勢を見ているのではないでしょうか。
では、Mさん。求人原稿制作の視点から、今後の採用に向けて企業がどのような工夫をすると、より多くの応募者を引き付けられるとお考えですか?
採用競争が激しい中、応募者へのレスポンスの速さと、企業としての柔軟な働き方の提案が非常に重要だと思います。たとえば、長時間労働が懸念される場合には、シフト制や勤務時間の短縮、さらにはシニア層も働きやすいような配慮を求人情報にしっかり盛り込むなど、求職者が現場の具体的なイメージを持てるように努めています。また、エリアごとの平均給与や、各社の勤務条件を私たちから共有することで、企業側も条件面を見直すきっかけとなります。迅速なレスポンスと求職者に寄り添った情報提供が応募増加につながると実感しています。
つまり、企業は採用条件の柔軟性や内定後のフォロー、そして求人情報における具体的かつ分かりやすい情報開示によって、求職者の安心感を高め、採用競争で有利になる可能性があるということですね。
その通りですね。採用は単に条件の数字だけでなく、選考時から内定後までの一貫したコミュニケーションとフォローが重要だと思います。
求人情報は、企業と求職者の双方にとって『見える化』のツールです。細やかな情報開示と、求職者目線の訴求が、今後の採用戦略の鍵になると感じています。
まとめ
ビルメンテナンス業界の採用について貴重なお話ありがとうございました。最後に本日のテーマ全体を振り返って、特に重要だと感じた点を一言ずついただけますでしょうか。
そうですね。やはり、ビルメン業界の人材不足は深刻で特に若手人材の確保が難しい現状が改めて浮き彫りになりました。シニア層の活用も重要ですが、企業側の意識改革も必要だと感じました。待遇面だけでなく、働きがいやキャリアパスを示すことも、今後の採用成功の鍵になるのではないでしょうか。
求人原稿の作成という立場からは、ターゲット層に合わせた情報発信の重要性を再認識しました。給与だけでなく、安定性や職場の雰囲気、研修制度など、求職者が重視するポイントを明確に伝えることが大切だと感じました。また、応募後の迅速かつ丁寧な対応も、採用成功には不可欠ですね。
ありがとうございました。本日の議論を通してビルメン業界の採用には、現状の課題を理解し、求職者のニーズに合わせた柔軟な対応が求められることがよくわかりました。今回の内容が、人事・採用担当者の皆様にとって少しでもお役に立てれば幸いです。