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採用活動が長期化し、それに伴って採用コストが膨らんでいる――そんな課題に頭を悩ませている人事担当者の方も多いのではないでしょうか。採用費を大きく削減するためのポイントは、「新たな人材を探すこと」ではなく、「既存の従業員に長く働き続けてもらうこと」にあります。
そこで重要になるのが「リテンション」です。
リテンションとは、従業員の定着率を高め、優秀な人材の離職を防ぐための取り組みのことで、組織の安定と成長を支えるうえで欠かせない考え方です。
本記事では、従業員リテンションについての解説やすぐに実践できる最新のリテンション施策を、具体例とともに分かりやすくご紹介します。「採用コストを抑えたい」「従業員満足度を高めたい」――そんな方は、ぜひ参考にしてみてください。

人材定着にお悩みではありませんか?
社員の採用や定着に関する課題、具体的なリテンション戦略の立案・実行でお困りの際は、ぜひ私たち内藤一水社にご相談ください。貴社の状況に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。
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従業員リテンションを理解することは、企業の人事戦略において極めて重要です。なぜなら、社員の離職は、企業にとって採用・教育コストの増加、組織全体のパフォーマンス悪化など、さまざまな影響を及ぼすためです。
まずは「従業員リテンション」とは何か、定義や注目されている背景について解説します。
リテンションとは英語で「維持・保持・保留」を意味する言葉で、人事領域では「企業にとって価値のある人材、特に優秀な従業員の離職を防ぎ、彼らが自社で能力を最大限に発揮し、継続的に活躍してもらうためのあらゆる取り組み」を指します。
単に「辞めさせない」という受け身の姿勢ではなく、従業員が「この会社で働き続けたい」と心から思えるような魅力的な環境を整備し、エンゲージメントを高めるための積極的な働きかけが、人事におけるリテンションの本質です。
このリテンションを実現するための具体的な人事施策やその運用を「リテンションマネジメント」と呼びます。そして、企業がどのような人材を定着させ、そのためにどのような方針で、どのような施策を計画的に実行していくのか、という組織全体の人事戦略を「リテンション戦略」と呼びます。
つまり、人事担当者にとってリテンションとは、単なる離職率の低下を目指す活動に留まらず、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠な、戦略的人材マネジメントの中核をなすものと言えるでしょう。
リテンションが注目されるようになった背景として、労働市場における「労働人口の減少」、「人材獲得競争の激化」、「人材の流動化」が挙げられます。
現在の日本では、少子高齢化により労働人口が減少し、企業は働き手を確保することがますます困難になっています。内閣府の「令和6年版高齢社会白書」では、2060年の65歳以上人口割合は約38%、日本人の約4割が高齢者になると推計されています。
前述のとおり日本の労働力人口は減少傾向にあり、人手不足を加速させています。
業界を問わず企業間の競争が非常に激しくなり、優秀な人材を確保することが難しくなってきています。令和6年・令和7年3月の有効求人倍率を比較すると多数の職種で前年同月よりも有効求人倍率が高くなり、企業が人材を確保しづらくなっていることがわかります。
| 令和6年3月 | 令和7年3月 | |
|---|---|---|
| 職業計 | 1.22 | 1.24 |
| その他技術者 | 2.16 | 7.21 |
| 保安 | 6.74 | 7.05 |
| 建築・土木・測量技術者 | 6.74 | 6.96 |
| 土木 | 6.45 | 6.80 |
| 機械整備・修理 | 4.58 | 4.53 |
| 電気工事 | 3.47 | 3.84 |
| 介護サービス | 3.32 | 3.51 |
| 外勤事務 | 3.20 | 3.47 |
| 運輸・郵便事務 | 3.00 | 3.09 |
| 営業 | 2.39 | 2.40 |
| 清掃 | 1.17 | 1.08 |
引用:ハローワーク情報サイト「職業別の有効求人倍率」
以前は「終身雇用」が一般的でした。近年「転職が当たり前」という考え方が広まり、転職サイトの登録者数は、全体的に増加傾向にあります。特に、Z世代と呼ばれる若い世代を中心に「キャリアオーナーシップ」を意識し、将来を見据えて早めに転職サイトに登録する傾向が強まり人材の流動化が進んでいることがわかります。

出典:パーソルキャリア「新社会人の転職サイト登録動向・2024年版」
以上の背景から、既存の従業員を定着させ、いかに労働生産性を向上させるかが企業の重要課題となっていることが分かります。
そこで、新たな人材を採用するだけでなく、既存社員の活躍を促すリテンション戦略が欠かせないのです。

従業員リテンションの強化は、単に社員の離職を防ぐという守りの一手にとどまらず、企業の成長と競争力を大きく左右する攻めの一手ともなり得ます。人事担当者として知っておくべき、具体的な5つのメリットを見ていきましょう。
社員が定着し、長く活躍してくれることは、採用活動におけるコストと時間の両面で大きなメリットをもたらします。
頻繁な人員補充の必要性が低減すれば、求人広告費や人材紹介会社への手数料といった直接的な採用コストはもちろんのこと、書類選考や面接、入社手続きといった採用担当者の貴重な工数も大幅に削減できます。さらに、新入社員の受け入れや教育にかかるコストや時間も軽減されるでしょう。
これらの削減された経営資源は、既存従業員のさらなるスキルアップ研修、より魅力的な福利厚生の導入、あるいは事業成長を加速させるための新たなテクノロジーへの投資など、企業の未来を形作るための戦略的な分野へと振り向けることが可能になります。
長年にわたり企業に貢献してきた従業員は、単に業務をこなすだけでなく、マニュアルだけでは伝えきれない貴重な経験知や、顧客との間に築き上げてきた信頼関係といった、いわば「組織の財産」をその身に宿しています。これらは、企業の競争力の源泉となる暗黙知や熟練の技とも言えるでしょう。
社員の離職を防ぐことは、これらの専門知識、業務ノウハウ、そして顧客との関係性といった目に見えない重要な資産が社外へ流出するのを防ぎ、組織内に確実に蓄積していくことを意味します。そして、その貴重な知識やスキルは、OJTやメンター制度などを通じて若手社員や他の従業員へと着実に継承され、組織全体のスキルレベル向上と持続的な成長を支えます。
社員の定着率が高まると、個々の従業員のスキルアップだけでなく、チーム全体のパフォーマンス向上にもつながります。経験豊富な従業員が安定して在籍することで、業務の効率や質は自然と高まります。また、互いの強みや弱みを理解し、阿吽の呼吸で連携できるような強固なチームワークが育まれ、組織全体の生産性向上に大きく貢献します。
さらに、リテンション施策を通じて従業員が「この会社で長く安心して働ける」と感じられるようになると、心理的安全性が高まり、日々の業務改善の提案や新しいチャレンジへの意欲が湧きやすくなります。その結果、組織全体でイノベーションが促進され、変化に強い、活気あふれる職場環境が実現するのです。
従業員が自社に愛着を持ち、「この会社で働き続けたい」と心から思える状態、すなわちリテンションが効果的に機能している状態では、企業の理念や価値観が社員一人ひとりに深く浸透しやすくなります。これにより、組織としての一体感が生まれ、判断基準が共有されることで、一貫性のある「ブレない組織運営」が可能となり、他社にはない独自の企業文化が育まれていきます。
このような良好な企業文化のもとでは、組織や日々の業務に対する安心感や信頼感が生まれ、既存社員のモチベーション維持・向上、ひいては従業員エンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)の向上へとつながります。エンゲージメントの高い社員は、自律的に行動し、より積極的に組織へ貢献しようとするため、企業成長の大きな推進力となるでしょう。
社員の定着率が高い企業では、経験豊富な従業員が顧客対応の最前線に立つことが多くなります。彼らは長年の経験で培われた深い商品知識や高度なコミュニケーションスキルを活かし、マニュアル通りの対応だけでなく、個々の顧客の状況やニーズに応じたきめ細やかで柔軟な対応を提供できます。
このような質の高い顧客対応は、顧客との間に強固な信頼関係を築き上げ、長期的なお付き合い、すなわち顧客ロイヤルティの向上に大きく貢献します。結果として、リピーターの獲得や口コミによる新規顧客の増加、さらには企業全体のブランドイメージ向上といった好循環を生み出すのです。従業員満足度(ES)なくして顧客満足度(CS)なし、と言われるように、社員が安心して長く働ける環境こそが、最終的に顧客への価値提供を高めることにつながります。

従業員リテンションが企業にもたらすメリットは計り知れませんが、その一方で職場環境に潜む様々な「阻害要因」は、従業員のモチベーションを蝕み、最悪の場合、貴重な人材の流出という事態を招きかねません。人事担当者として、これらのサインを見逃さず、早期に対策を講じることが重要です。
これらの阻害要因は、一つひとつが従業員のモチベーションやエンゲージメントを低下させ、最終的には貴重な人材の流出へとつながる可能性があります。自社に当てはまるものがないか、今一度見つめ直し、早期に対策を講じることが、リテンション向上への第一歩と言えるでしょう。

従業員の定着率を高め、貴重な人材の流出を防ぐためには、具体的かつ効果的なリテンション施策の実行が不可欠です。ここでは企業が取り組むべき代表的な9つの施策をご紹介します。
それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。
従業員が安心して働き続けるためには、生活の基盤となる金銭的報酬と、それを支える福利厚生の充実が欠かせません。
従業員が「この会社で成長できる」「将来のキャリアを築ける」と実感できる環境は、リテンションにおいて極めて重要です。自身の成長に希望を持てることは、働くモチベーションの源泉となります。
現代の働き手は、自身のライフスタイルや価値観に合わせた柔軟な働き方を求めています。ワークライフバランスを重視した環境整備は、従業員の満足度向上とストレス軽減につながり、結果として定着率向上に貢献します。
これらの制度を導入する際は、業務への影響を最小限に抑えるために適切なルール設計や運用体制も同時に整備しましょう。
職場の人間関係は、従業員の精神的な安定や働きがいに直結する重要な要素です。コミュニケーションが円滑で、互いに尊重し合える環境は、心理的安全性を高め、従業員の定着を促します。
従業員は、自身の努力や成果が正当に評価されていると感じることで、モチベーションを維持し、さらなる成長意欲を持つことができます。評価基準の曖昧さや不公平感は、組織への不信感を招き、離職の大きな要因となり得ます。
従業員が「自分の意見や考えが会社に届き、尊重されている」と感じられることは、エンゲージメント向上と信頼関係構築において非常に重要です。社員の不満や要望を早期に把握し、改善につなげるための仕組みを構築しましょう。
集めた声は真摯に受け止め、可能な範囲で改善策を講じ、その結果をフィードバックすることが信頼関係の構築につながります。
新しい環境に飛び込む新入社員や中途採用者は、入社初期に多くの不安や戸惑いを抱えています。この時期の適切なサポートは、早期離職を防ぎ、早期戦力化を促す上で極めて重要です。厚生労働省の調査(令和5年若年者雇用実態調査の概況)でも、勤続年数1年未満の離職理由として「人間関係がよくなかった」が上位に挙げられており、入社直後のフォロー体制の重要性が伺えます。
従業員が自社の理念やビジョンに共感し、自身の仕事がその実現に貢献していると感じられることは、働く意義や誇りを持ち、会社への帰属意識を高める上で非常に効果的です。
理念やビジョンが単なる「お題目」ではなく、従業員一人ひとりの行動指針として浸透することで、組織全体の一体感が醸成され、リテンション強化につながります。
日々の努力や小さな成果であっても、それが認められ、感謝される経験は、従業員のモチベーションを大きく向上させ、会社への忠誠心を育みます。「自分はここで必要とされている」「頑張りを見てくれている」という実感は、働く喜びそのものです。
これらの施策を地道に積み重ねることで、「互いに認め合い、高め合える」ポジティブな職場文化が醸成され、従業員が前向きに働き続けられる環境が実現します。

従業員リテンションの取り組みを実施して終わるのでなく、その後の効果測定と改善を続けることが重要です。
ここでは、リテンション施策の効果をどのように測定し、どのようなKPI(重要業績評価指標)を設定すべきかについて解説します。
リテンションの状況を客観的に把握し、施策の効果を評価するためには、適切なKPIを設定し、継続的にモニタリングすることが不可欠です。代表的なKPIとしては、以下のようなものが挙げられます。
これらのKPIを定期的に計測・分析することで、リテンション施策の進捗状況や効果を定量的に把握し、データに基づいた意思決定を行うことが可能になります。
リテンション率の具体的な計算方法は以下の通りです。
リテンション率の目標値を設定する際には、まず自社の過去のデータと比較し、改善傾向にあるかを確認することが重要です。その上で、業界平均や競合他社の状況を外部ベンチマーク(※)として参考にしつつ、自社の事業フェーズや組織課題に応じた現実的かつ挑戦的な目標を設定しましょう。
(※)外部ベンチマークとは、他社や業界全体の平均値など、自社の状況を相対的に評価するための比較対象となる指標のことです。
従業員エンゲージメント調査は、従業員の会社に対する「想い」や「満足度」、「働きがい」といった、目に見えない内面的な状態を可視化する強力なツールです。
(※)従業員エンゲージメントとは、従業員が自社や仕事に対して持つ愛着や誇り、そして自発的に貢献したいという意欲を持つ心理状態を指します。
上記の主要なKPIに加えて、以下のような指標も組み合わせることで、リテンション施策の効果をより多角的に評価し、深い洞察を得ることができます。
これらの指標を複合的に分析することで、リテンション施策が組織に与える影響をより深く理解し、戦略的な改善につなげることができるでしょう。
多くの日本企業が、従業員リテンションの重要性を認識し、様々な施策に取り組んでいます。
ここでは、厚生労働省の「若者が定着する職場作り取組事例集」から、様々な課題を乗り越え、リテンション向上に成功した企業の事例をいくつかご紹介します。
| 企業名 | 主な課題 | 導入した施策 | 成果 |
|---|---|---|---|
| 株式会社アイネット (情報通信業) |
若手社員の離職 定着率の低迷 |
・新入社員研修期間の延長 ・社内インターン制度 |
若手社員の定着率向上 |
| カネテツデリカフーズ株式会社 (食品製造業) |
入社3年以内の 離職率50%前後 |
・新入社員指導員制度 ・フォローアップ研修 |
入社3年以内の 離職率10%前後に改善 |
| 株式会社マナベインテリアハーツ (小売業) |
・賃金制度が不透明 ・優秀な人材の退職 |
・等級制度 ・賃金制度 ・評価制度 |
社員のモチベーション向上 |
| 株式会社ホットランド (飲食業) |
・人材確保 ・早期離職 |
・労務管理の徹底 ・個別面談、集合研修(入社1年目) ・退職面談 |
新入社員の離職率低下 |
(出典:厚生労働省「若者が定着する職場作り取組事例集」より一部抜粋・要約)
本記事では、従業員リテンションの重要性から、そのメリット、阻害要因、具体的な強化策、効果測定、そして成功事例に至るまで、網羅的に解説してきました。
従業員リテンションは、単に「社員が辞めないようにする」という守りの一手ではありません。企業の競争力を高め、イノベーションを生み出し、持続的な成長を可能にするための、極めて戦略的な投資です。優秀な人材が安心して能力を発揮し、成長し続けられる環境を整備することは、採用コストの削減、生産性の向上、強固な企業文化の醸成、そして顧客満足度の向上といった、数多くの具体的なメリットとなって企業に還元されます。
今後、労働人口の減少や採用競争の激化が一層進むと予測される日本において、企業にとってリテンション施策への取り組みは、もはや「選択肢」ではなく「必須」の経営課題と言えるでしょう。
この記事をきっかけに、ぜひ一度、貴社の現状を多角的に見つめ直してみてください。そして、まずは小さな一歩からでも、従業員が「この会社で働き続けたい」と心から思えるような環境づくりに着手してみてはいかがでしょうか。一つひとつの施策が、必ずや貴社の未来をより明るく照らすはずです。

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