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2026年7月28日、今年度の最低賃金の引き上げ目安が国から示され、全国加重平均は1,176円となる見込みです。なお、都道府県ごとの最終的な改定額と発効日はこれから決定されます。
このニュースを目にして、「自社は最低賃金より高い給与を設定しているから関係ない」と考えていませんか?
実は、最低賃金の引き上げは、現在の時給が最低賃金に近いパート・アルバイトだけの問題ではありません。月給制社員の給与を時間額に換算した際の適法性確認をはじめ、ベースアップに伴う既存社員との賃金バランスの調整、出稿中の求人票の給与表記の修正、そして全社的な人件費予算の再試算など、企業には幅広い見直しが求められます。
この大幅な引き上げに対し、企業は正式な決定を待たず、迅速かつ的確な実務対応を進める必要があります。本記事では、人事・採用担当者が今すぐ取り組むべき発効前の準備から、制度適用後の具体的な検証プロセスまでを分かりやすく解説します。
目次
2026年7月28日、中央最低賃金審議会より、2026年度の地域別最低賃金の引き上げ額に関する目安が答申されました。
全国加重平均は現在の1,121円から55円引き上げられ、1,176円となる見通しです。上昇率は4.9%に達し、深刻な人手不足と長引く物価高という日本経済の現状を強く反映した結果となりました。
【2026年度 最低賃金改定の目安サマリー】
この改定は、単に「パート・アルバイトの時給を少し引き上げる」という単純な法対応だけでは乗り切れません。特に、店舗を多数展開する飲食・小売などのサービス業や、複数の地域に拠点を持つ企業にとっては、急激な人件費上昇のほかにも次のような連鎖的な課題が発生します。
【企業が直面する主な課題】

人事・労務担当者が解決すべき課題は、このように多岐にわたります。本記事では、この大転換期において企業が直面する法的義務と実務上の重要ポイント、そして人手不足を乗り越えるための攻めの採用戦略までを徹底的に解説します。
今回の改定は、政府が掲げる「2030年代前半までに全国平均1,500円」という目標に向けた大きなステップとなります。春闘での高水準な賃上げや深刻な人手不足を背景に、最低賃金引き上げの流れはますます加速しています。
2026年度の改定目安として示された全国加重平均は1,176円です。前年度(1,121円)からの引き上げ額は55円、引き上げ率は4.9%となります。
引き上げ幅そのものは前年度の66円を下回ったものの、約5%という改定率は依然として非常に高い水準です。企業の収益構造や人件費予算に多大な影響を与えることは避けられません。
地域別の引き上げ額の目安(A・B・Cランク別)
国の引き上げ目安は、各都道府県の経済実態に合わせて、A・B・Cの3つのグループ(ランク)ごとに設定されています。
【2026年度 地域別引き上げ額の目安一覧】
| ランク | 対象地域 | 引き上げ目安 | 主な試算額(※現在額+目安) |
|---|---|---|---|
| Aランク | 6都府県 (東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪) |
54円 | 東京都:1,280円 大阪府:1,231円 |
| Bランク | 28道府県 | 56円 | -- |
| Cランク | 13県 | 56円 | -- |
(※)上記試算額は現在の最低賃金に国の目安を単純に加えたものであり、確定額ではありません。
【今回の改定のポイント:地方の引き上げ幅が上回る】
今回の目安で特に注目すべきは、都市部を中心とするAランク(54円)よりも、地方部を多く含むB・Cランク(56円)の引き上げ目安が2円高く設定されている点です。
これは地域間格差の是正を意識した設計ですが、地方の企業にとっては、短期間での急激なコスト増に備える必要があります。

実務を進めるうえで非常に重要なのは、現段階で示されている「1,176円」や「54〜56円の引き上げ」は、あくまでも国が示した「目安」であるという点です。
実際に企業が適用すべき「都道府県別の改定額」は、以下のプロセスを経て正式に決定されます。
「目安の通りに時給を改定して終わり」と自己判断するのは危険です。人事担当者は、決定済みの「国の目安」と、これから発表される「地方ごとの確定額」「発効日」を明確に区別し、自社の該当する都道府県の動向を引き続き注視する必要があります。
給与計算における法的な違反(最低賃金割れ)を確実に防ぐためには、新しい改定額が「いつから適用されるのか」という正確なスケジュール管理が欠かせません。
例年、中央最低賃金審議会の目安が提示された後、以下の流れで各都道府県の最低賃金が決定され、発効に至ります。

【決定・発効までの主な流れ】
【重要】すべての地域が一斉に10月1日発効ではありません
新しい最低賃金は、地域によって10月上旬から中旬にかけて順次発効します。「10月1日に一律で切り替わる」と思い込まず、自社が関わる自治体の正確な発効日を必ず確認してください。
地域別最低賃金は、企業の「本社所在地」ではなく、従業員が「実際に勤務している事業所の所在地」を基準に適用されます。
【適用される最低賃金の基準】
■ 実務上の対策
全国展開している企業や複数の地域に拠点を持つ企業は、給与計算漏れを防ぐため、「事業所ごとの発効日と改定額の一覧表」を作成し、誤りがないよう一元管理する体制を整えましょう。
最低賃金制度は、雇用形態(正社員、契約社員、パート・アルバイトなど)や職種を問わず、すべての労働者に等しく適用される強い法的効力を持っています。「時給制のスタッフはいないから自社には関係がない」と見過ごしがちな落とし穴を整理します。
最低賃金の引き上げは、時給契約のパートやアルバイトだけでなく、月給制で働く契約社員や正社員にも適用されます。
月給制の従業員については、給与を「時間給換算」して、その地域別の最低賃金額を上回っているかを計算しなければなりません。
【月給制の時給換算式】
月給(対象となる賃金) ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額
特に、新卒採用の初任給や、一般事務・販売職など基本給が比較的低めに設定されている職種では、今回の引き上げによって時給換算額が最低賃金を下回ってしまう「最低賃金割れ」が発生しやすくなるため、入念な確認が必要です。
月給制社員の時間換算額を計算する際、毎月支給しているすべての給与(総支給額)を算入できるわけではありません。法に適合しているかを検証する際は、次に挙げる手当や賃金を計算対象から「除外」する必要があります。
【最低賃金の計算から除外しなければならない賃金】

「各種手当を含めた総額が20万円を超えているから大丈夫だろう」と過信せず、対象となる基本給と特定の役職手当等のみを抽出し、正確な時給換算を行ってください。
都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」のほかに、特定の産業(製造業や小売業の一部など)に従事する基幹的労働者を対象とした「特定最低賃金」が存在します。
特定最低賃金は、地域別最低賃金よりも高い金額に設定されていることが一般的です。自社の事業がこの特定最低賃金の対象に含まれる場合、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方を比較し、高い方の金額を基準に給与を支払う義務があります。自社の事業内容が該当するかどうか、各都道府県労働局のWEBサイト等で必ず確認しましょう。
最低賃金が適用される秋の発効日に向けて、人事・採用担当者が今すぐ実行すべき具体的な準備アクションを7つのステップで解説します。
まずは全従業員の給与データを抽出し、今回の改定で直接影響を受ける従業員を特定します。
このとき、改定額ギリギリの従業員だけでなく、「新最低賃金から50円〜100円程度高い水準」で働いている従業員も含めて洗い出しておくことが重要です。これにより、後述する「全体の賃金バランス調整」がスムーズに進められます。
引き上げ対象となる従業員の「昇給額 × 労働時間」をベースに、全社的なコスト増を試算します。単なる時給の引き上げ分だけでなく、連動して増加する周辺コストも必ず加味して算出してください。
【人件費試算のポイント】
■ 試算イメージ(時給55円アップのスタッフが20名、月80時間勤務の場合)
たった数十円の引き上げでも、人数や労働時間によっては年間数百万円規模のインパクトになるため、早急な予算の見直しが必要です。
最低賃金に近い従業員の時給だけを引き上げると、深刻な「賃金の圧縮(縮小)問題」が発生します。
たとえば、入社したばかりの新人アルバイトが「新最低賃金の1,176円」に引き上げられる一方、数年間の実務経験がある先輩アルバイトの時給が1,200円のままであると、その差はわずか24円に縮まってしまいます。

このような状態は、現場の既存スタッフに強い不公平感を抱かせ、モチベーション低下や大量離職の引き金になります。役割、技能、勤続年数などに応じた「公平な給与差」が維持できるよう、特定の層だけでなく給与テーブル全体を底上げする見直しが必要です。
給与体系の変更に伴い、社内の規程やシステムのアップデートを行います。
自社が出稿・掲載しているすべての求人情報を洗い出し、給与額を最新の法基準に適合させます。
【見落としがちな求人掲載先の例】
発効後に最低賃金を下回る時給を掲載していると、媒体側での公開停止措置や修正対応に追われるだけでなく、求職者とのトラブルや「法令順守の意識が低い」という企業イメージの低下に直結します。
採用力を維持するためには、「最低賃金をクリアしていればよい」という受け身の姿勢では不十分です。
特に人手不足が深刻な飲食・小売・物流などの業界では、近隣の他社店舗や競合職種が「いくらで募集をかけているか」の相場を徹底的に調査してください。最低賃金を下限としつつも、自社の採用予算内で「求職者から選ばれる魅力的な募集時給」を再設定することが、人材確保の鍵となります。
中小企業や小規模事業者の賃上げ支援として、政府が提供する公的制度の活用を検討しましょう。
代表的な「業務改善助成金」は、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げるとともに、生産性向上のための設備投資(POSレジ、自動調理器、勤怠管理システムの導入など)を行った場合、その費用の一部を最大600万円まで助成する制度です。
予算枠の上限や申請期限が設けられているため、対象要件を早急に確認し、早期に導入計画を立てることをおすすめします。
新最低賃金が実際に発効した後は、「設定して終わり」ではありません。運用の確実性を点検し、給与改定に伴って発生する副作用に対して先手を打つことが重要です。
新制度が始まってから「最初の給与支払い」を行う際は、システムが新しい時給を正しく適用しているかを二重、三重にチェックします。
【給与計算の重点チェック項目】
万が一、地域別最低賃金を下回る賃金を支払った場合は最低賃金法違反となり、不足額を支払う義務が生じるだけでなく、50万円以下の罰金が科されることがあるため、厳重な確認が必要です。
時給が引き上げられると、従業員が税制上の扶養や社会保険の加入条件である「年収の壁」を意識し、勤務時間を抑制する就業調整が発生しやすくなります。

また、2025年に成立した年金制度改正法では、いわゆる「106万円の壁」に当たる賃金要件の撤廃や、企業規模要件の段階的な縮小が予定されています。企業は最新の制度を把握したうえで、以下の対策を行いましょう。
事前に「賃金の圧縮問題(ステップ3)」への対策を打ったとしても、現場のキーパーソンや中堅の既存社員から「不公平感」が生じていないか、注意深く観察する必要があります。
特に、自分の役割に対する評価や、新人と自分の時給差に納得がいっていない場合、離職のサインを出し始めることがあります。ヒアリングや面談をこまめに実施し、自社の「役割と期待する業務、および評価に基づいた賃金の仕組み」を明確に説明できる体制を作っておくことが重要です。
時給を引き上げて掲載した求人募集が、実際にどれだけの成果をもたらしたかを数値で測定し、PDCAサイクルを回します。
【採用効果の主な検証項目】
もし「時給を上げたのに応募が増えない」のであれば、問題は給与ではなく、求人票のタイトル・仕事内容の分かりやすさ、あるいは労働環境そのものにある可能性があります。改定を機に、採用プロセス全体を見直しましょう。
引き上がった人件費の負担を吸収するためには、最終的に「従業員一人あたりの生産性を高める」ほかありません。
【生産性向上のアプローチ例】
単なる「コストカット(無理なシフト削減)」で現場を疲弊させるのではなく、業務のやり方そのものをアップデートし、持続可能な組織体制へのシフトを目指すことが企業の成長につながります。
最低賃金改定に伴う対応漏れを防ぐために、以下のプロセス表を活用してください。
「発効前」と「発効後」のフェーズに分け、実務の進捗を段階的に確認していくことが確実な法対応のポイントです。
2026年度の最低賃金「全国加重平均1,176円」という大幅な引き上げ目安は、企業にとって人件費負担の増加というピンチであると同時に、組織の信頼性や採用体制を根本から見直す重要なチャンスでもあります。
各都道府県の最終確定額や発効日が公表されてから動き出したのでは、給与システムの改修や求人情報の一斉更新、雇用契約の再締結といった膨大な実務に対応しきれません。まずは今すぐ、国の目安を基準にした「影響を受ける従業員の洗い出し」と「人件費の仮試算」から着手してください。
また、これからの採用市場を勝ち抜くためには、単に「法的な最低ラインをクリアする」という消極的な対応にとどまらない戦略が必要です。
【企業に求められる「守り」と「攻め」の対応】
人事・採用担当者の皆様が、この制度改正を「単なるコスト増」で終わらせず、「優秀な人材を集め、生産性を高めるきっかけ」へと変えていけるよう、今日から戦略的な準備を迅速に進めていきましょう。
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