採用事情

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公開日2025.05.23更新日2025.05.23

離職によって発生するコストは数百万円規模?内訳・計算の考え方から削減方法まで徹底解説

離職によって発生するコストは数百万円規模?内訳・計算の考え方から削減方法まで徹底解説

新入社員の早期離職が相次ぎ、「採用してもすぐに辞めてしまう」「定着率を上げるにはどうすればいいのか」と頭を悩ませている採用担当者の方も多いのではないでしょうか。

実は社員1人の離職が企業にもたらす金銭的コストは、想像以上に大きいことをご存知でしょうか?単に採用費や研修費が無駄になるだけでなく、後任採用までの機会損失や周囲の社員の生産性低下など、目に見えにくいコストまで含めると、1人あたり数百万円規模に達することも珍しくありません。

この「見えざるコスト」とも言える離職コストの実態を正確に把握し、組織全体でその深刻さを共有することが、効果的な対策を講じるための重要な第一歩となります。

本記事では、離職コストの内訳や計算の考え方をわかりやすく解説するとともに、早期離職を防ぐために取り組むべき対策についても紹介します。社員の定着率を高め、採用活動の成果を無駄にしないために、ぜひ参考にしてください。

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離職によって発生するコストとは?

「社員が1人辞めるだけ」――もし、そう軽く考えてしまっているとしたら、それは大きな誤解かもしれません。たった1人の離職であっても、企業は想像以上に多岐にわたる「コスト」を支払っているのです。

新しく社員を採用するための求人広告費や人材紹介料、そして時間と労力をかけて実施した研修費用。これらは比較的イメージしやすい「見えるコスト」でしょう。しかし、本当に注意すべきは、それだけではありません。

離職者が出たことによる業務の引き継ぎの混乱、それによる一時的な生産性の低下。残された社員への業務負担の集中とそれによるモチベーションの低下。さらには「あの会社は人がすぐ辞める」といったネガティブな評判が広がり、企業の採用ブランドや顧客からの信頼を損なう可能性――これらは、すぐには金額として現れにくい「見えにくい損失」ですが、確実に企業の体力を蝕んでいきます。

つまり、離職は単に採用や育成にかけた費用が無駄になるという話に留まらず、チーム全体のパフォーマンス低下、ひいては企業全体の競争力低下にまで繋がりかねない深刻な問題なのです。

具体的に、離職によって発生するコストには、以下のようなものが挙げられます。

採用コスト(採用関連費)
求人広告の掲載費用、人材紹介会社への成功報酬、説明会や面接に関わる社員の人件費・時間的コスト、適性検査費用など。
教育・育成コスト
新入社員研修やOJT(On-the-Job Training)にかかる費用、研修プログラム開発費、外部講師への依頼費用、指導を担当する先輩社員の人件費・時間的コストなど。
在籍中の人件費・福利厚生費
早期離職の場合、十分な成果を出す前に支払われた給与、賞与、社会保険料、福利厚生費などが「投資回収できなかったコスト」として認識されます。
生産性・機会損失コスト
離職者による業務停滞、引き継ぎ期間中の業務非効率化、後任者が決まるまでの欠員期間における機会損失(例:新規プロジェクトの遅延、顧客対応の質の低下など)。
周囲への波及コスト(組織的損失)
残された社員の業務負荷増加に伴う残業代の発生、モチベーションやエンゲージメントの低下、チームワークの乱れ、さらなる連鎖退職のリスクなど。
企業イメージ・ブランド毀損コスト
離職率の高さが外部に知られることによる採用競争力の低下、顧客や取引先からの信頼低下、企業ブランドイメージの悪化など。

これらの要素を総合的に考慮すると、社員1人の離職がもたらす経済的損失は、場合によっては数百万円、あるいはそれ以上に膨れ上がることも決して珍しくありません。
だからこそ、社員の離職を単なる「人手不足の問題」として片付けるのではなく、経営全体に影響を及ぼす重大な「損失」であると認識を改めることが不可欠です。

では、具体的にどのような種類のコストが、どの程度のインパクトを持っているのでしょうか?まずはその実態を明確に理解することから、効果的な対策への第一歩を踏み出しましょう。

離職コストは本当に数百万円?その驚くべき内訳と試算

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「社員が1人辞めると、数百万円の損失が出るって本当?」――にわかには信じがたいかもしれませんが、これは決して大げさな話ではありません。特に入社後1年以内といった早期離職の場合、企業が被る経済的ダメージは深刻です。
なぜなら、採用にかけた直接的な費用はもちろんのこと、育成に注いだ時間とコスト、そして何より、その社員が在籍していた期間に支払われた給与や社会保険料などが、十分な成果を上げる前に「回収不能な投資」となってしまうからです。

実際に、ある試算(※)によれば、新卒社員が1年で離職した場合のコストは約530万円~580万円、中途社員の場合はさらに深刻で約640万円~850万円にも上るとされています。
※これらの数値は、あくまで一般的なモデルケースであり、企業の規模や採用手法、育成方針によって変動します。

この驚くべき金額は、主に以下の3つのコスト要素から構成されています。

  1. 採用コスト:離職した社員を採用するためにかかった費用、そして後任者を採用するための再募集費用。
  2. 在籍コスト(人件費):離職するまでの期間に支払われた給与、賞与、社会保険料など。
  3. 教育コスト:研修費用やOJTなど、一人前に育てるために投じた費用と時間。

これらのコストが積み重なることで、1人の離職が数百万円規模の損失につながるのです。特に、採用単価や期待される貢献度が高い中途社員の場合、その損失額はさらに大きくなる傾向にあります。

では、具体的にどのような内訳で、これほどのコストが発生するのでしょうか?それぞれのコスト要素を詳しく見ていきましょう。

採用コスト:消える採用費と、終わらない再募集

社員が離職すると、まず無駄になるのが、その人材を獲得するために投じた採用コストです。さらに深刻なのは、欠員を補充するために再び採用活動を行わなければならず、その都度、多額の費用が発生するという悪循環です。

採用コストには、以下のようなものが含まれます。

求人広告・人材紹介料
求人サイト掲載:1人あたり20万円~50万円程度が目安。
人材紹介会社:採用者の想定年収の約30%(例:年収400万円なら120万円)。特に中途採用では高額になりがちです。
採用担当・面接官の人件費
書類選考、面接(複数回実施が一般的)、社内調整、内定者フォローなど、採用プロセスに関わる社員の時間的コスト。
仮に面接3回、各回2名が1時間対応(時給2,000円と仮定)した場合、面接だけでも約12,000円の人件費が発生します。実際にはこれ以上の工数がかかっています。
その他経費
会社説明会の開催費用、内定者懇親会の費用、入社準備にかかる事務コストなど。

これらの費用を合計すると、新卒採用で1人あたり約100万円~150万円、中途採用では100万円~300万円程度が一般的な相場と言えるでしょう。(参考:リクルートキャリア「就職白書2020」では、新卒1人あたりの採用単価は平均93.6万円)

離職が繰り返されるたびに、このコストが何度も発生することを考えると、いかに大きな負担となるかご理解いただけるはずです。

在籍コスト(人件費):貢献なき給与支払いという現実

離職した社員が在籍していた期間中、企業は当然ながら給与や社会保険料といった人件費を支払い続けています。早期離職の場合、この期間に社員が企業へ十分な価値貢献を果たせていないケースが多く、支払われた人件費は「投資回収できなかったコスト」として重くのしかかります。

人件費には、月々の給与だけでなく、賞与、そして企業が負担する社会保険料(健康保険、厚生年金など、給与のおおよそ15.5%程度)や通勤手当などの法定福利費も含まれます。

仮に、月給30万円(賞与年3ヶ月分)の中途社員が1年で離職した場合の年間人件費を試算すると、以下のようになります。

  • 年間給与:30万円 × 12ヶ月 = 360万円
  • 賞与:30万円 × 3ヶ月 = 90万円
  • 社会保険料(企業負担分):(360万円 + 90万円) × 15.5% ≒ 69.7万円
  • 法定福利費(通勤手当等概算):年間12万円と仮定
  • 合計:約531.7万円

これはあくまで直接的な人件費であり、この社員が生み出すはずだった利益や機会損失は含まれていません。

教育コスト:水の泡と消える育成投資

新入社員や中途入社者が一人前の戦力となるまでには、多大な教育コストが投じられています。早期離職は、これらの投資が文字通り「水の泡」となることを意味します。

教育コストは、大きく分けて以下の2つです。

OJT(現場教育)コスト
指導を担当する先輩社員や上司が、自身の業務時間を割いて教育にあたる時間的コスト(人件費)。
例えば、月給40万円の指導者が、新卒社員に3ヶ月間、業務時間の20%をOJTに費やした場合、約24万円 (40万円 × 20% × 3ヶ月) のコストが発生します。中途社員でも、業務に慣れるまでは同様のコストがかかります。
研修費用
新入社員研修、専門スキル研修、フォローアップ研修などの外部委託費用や、社内研修プログラムの運営費用。
新卒であれば合計15万円程度、中途でも数万円の研修費用が見込まれる場合があります。

これらを合計すると、新卒で約39万円、中途でも約9万円程度の教育コストが、離職によって失われることになります。
さらに、これらの直接的な教育費用に加え、教育期間中の生産性低下や、指導者の業務停滞といった間接的な損失も考慮に入れる必要があります。

見過ごせない!離職がもたらす「お金以外の損失」とは?

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離職によって生じる損失は、金銭的なコストだけではありません。
離職によって失われるのはお金だけでなく、「組織の関係性」「職場の雰囲気」「企業の信用」といった、定量化しづらい価値も含まれます。
そして、このような「数字で見えない損失」は後々まで影響を及ぼすことがあり、企業にとっても軽視できない問題です。

これらの「見えざる損失」は、放置しておくと以下のような形で、企業の根幹を揺るがす問題へと発展する可能性があります。

組織全体の生産性低下・士気低下
まず直面するのが、欠員による既存社員の業務負担増です。一人ひとりの業務量が増え、残業が常態化し、心身ともに疲弊することで、個々のパフォーマンスが低下します。「また人が辞めた」「自分もいつまで頑張れるだろうか」といったネガティブな空気が蔓延し、職場全体のモチベーションが著しく低下。チームワークも乱れ、結果として組織全体の生産性が大きく損なわれる可能性があります。
知識・ノウハウの流出
特に経験豊富な社員や、特定の専門知識を持つ人材が離職した場合、その社員が社内に蓄積してきた知識、技術、顧客情報、そして成功・失敗体験といった貴重なノウハウが一気に社外へ流出してしまいます。
これは、単に情報が失われるだけでなく、企業の競争力を直接的に低下させるリスクをはらんでいます。
企業イメージの悪化と採用ブランドの毀損
「あの会社は人の入れ替わりが激しい」「社員を大切にしない企業なのでは?」といったネガティブな評判は、SNSや口コミサイトを通じて瞬く間に拡散します。
一度失墜した企業イメージや採用ブランドを回復するのは容易ではなく、優秀な人材の獲得がますます困難になるという悪循環に陥る可能性があります。
現場マネジメントの疲弊と育成文化の崩壊
手塩にかけて育てようとしていた部下が次々と離職してしまうと、管理職は徒労感や無力感に苛まれます。
育成計画は白紙に戻り、何度も同じ指導を繰り返すことに疲弊し、マネジメントへの意欲そのものが削がれてしまうことも。結果として、組織全体の育成力が低下し、若手が育ちにくい環境が生まれてしまいます。
チームとしての成長機会の損失
新しいメンバーを迎え入れ、共に目標に向かって努力する過程は、チームに一体感をもたらし、新たな視点やアイデアを生み出す貴重な機会です。
早期離職が繰り返されると、こうしたチームとしての成長機会や、知識・経験を共有し合う組織学習の機会が奪われ、組織全体の進化が停滞してしまいます。

これらの「数字で見えにくい損失」は、一つひとつが直接的に財務諸表にマイナスとして計上されるわけではありません。しかし、長期的に見れば、組織力の低下、イノベーションの停滞、そして採用競争力の低下といった形で、確実に企業の収益性や成長性を脅かすことになるのです。

だからこそ、企業は「定着率の向上=単なるコスト削減」という短期的な視点だけでなく、「定着率の向上=組織の持続的な成長と社会からの信頼を維持するための投資」という長期的な視点を持って、真摯に対策を講じていくことが極めて重要と言えるでしょう。

なぜ早期離職は起こるのか?現状と主な原因

これほどまでに大きなコストと組織的ダメージが発生するにもかかわらず、なぜ新入社員や若手社員の早期離職は一向に減らないのでしょうか?

「せっかく育てようと思ったのに…」「どうしてこんなに早く見切りをつけてしまうのだろう?」
人事・採用担当者の方々は、そんなやるせない思いや、時には無力感を抱く場面も少なくないかもしれません。

早期離職という現象の背景には、社会全体の労働観の変化やキャリア意識の多様化といったマクロな要因と、個々の企業における採用・育成・職場環境の問題というミクロな要因が複雑に絡み合っています。
つまり、従来の「当たり前」だった雇用や育成の在り方を見直し、今の時代の求職者・社員の価値観に寄り添ったアプローチを模索しなければ、貴重な人材の流出は今後も繰り返される可能性が高いのです。

まずは、近年の離職率がどのような状況にあるのか、客観的なデータから現状を把握しましょう。その上で、早期離職を引き起こす代表的な原因を深掘りしていきます。

近年の離職率の現状

近年、特に若年層、とりわけ新規学卒者の早期離職は、多くの企業にとって喫緊の課題となっています。人材確保の難易度が上がる中で、ようやく採用できた人材が短期間で離れてしまうことは、企業の成長戦略に大きな影響を及ぼしかねません。

厚生労働省が公表している「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は、高卒で38.4%、大卒で34.9%という依然として高い水準にあります。これは、おおよそ3人に1人が3年以内に最初の職場を去っていることを意味しており、前年度と比較しても微増傾向が見られます。

さらに深刻なのは、事業所の規模別データです。従業員数が少ない企業ほど離職率が高くなる傾向があり、例えば、従業員5人未満の事業所では、高卒の離職率が62.5%、大卒でも59.1%と、半数以上が3年以内に離職しているという衝撃的な実態が明らかになっています。

このような状況は、特にリソースに限りのある中小企業にとって、採用と育成にかけた多大なコストと労力が水泡に帰すリスクが高いことを示しており、事業継続への大きな脅威となり得ます。

早期離職を引き起こす、見過ごせない5つの根本原因

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では、社員が早期離職してしまう原因にはどのようなものがあるのでしょうか。
その背景には、多くの場合、複数の要因が複雑に絡み合っています。ここでは、特に代表的な原因を5つに整理して解説します。

入社前後のリアリティ・ショック(業務内容・社風のミスマッチ)
入社前に抱いていた仕事内容や職場の雰囲気、人間関係に対する華やかなイメージと、入社後の厳しい現実との間に大きなギャップを感じてしまうケースです。
例えば、「クリエイティブな仕事ができると思っていたが、実際は地味な作業ばかりだった」「風通しの良い社風だと聞いていたが、想像以上にトップダウンだった」など、企業側の情報提供のあり方や、求職者側の企業理解の浅さが原因となることがあります。
この「リアリティ・ショック」は、特に社会人経験の浅い新卒社員に多く見られ、モチベーションの急低下や早期の離職願望に繋がりやすい傾向があります。
働きがい」と「働きやすさ」の不一致(労働条件・待遇・働き方への不満)
給与水準、長時間労働、休日休暇の取りにくさ、評価制度の不透明さなど、労働条件や待遇、働き方そのものに対する不満は、依然として早期離職の根強い原因です。
「自分の頑張りが正当に評価・処遇されていない」「プライベートの時間が全く確保できず、心身ともに限界だ」「将来的な昇給やキャリアアップが見込めない」といった不満が積み重なると、より良い条件を求めて転職を考えるのは自然な流れと言えるでしょう。
キャリアパスへの不安と将来展望の欠如
「この会社で働き続けて、自分は本当に成長できるのだろうか?」「5年後、10年後、どんなスキルが身につき、どんなキャリアを歩んでいるのだろうか?」といった、自身のキャリアに対する漠然とした不安や、将来展望の不透明さも、特に向上心の高い若手社員の離職を後押しします。
企業側が明確なキャリアパスや成長機会を提示できなかったり、社員一人ひとりのキャリア志向に寄り添ったサポートが不足していたりすると、「ここでは自分の市場価値を高められない」と判断され、より成長できる環境を求めて他社へ移ってしまう可能性があります。
人間関係の悩みとコミュニケーション不全
上司との関係、同僚との連携、あるいはハラスメントといった職場内の人間関係の悩みは、働く上で非常に大きなストレス要因となります。
特に新入社員や若手社員は、業務上の疑問や悩みを気軽に相談できる相手がいなかったり、職場のコミュニケーションが希薄だったりすると、孤独感や疎外感を深め、精神的に追い詰められてしまうことがあります。
心理的安全性が確保されていない職場環境は、エンゲージメントの低下を招き、離職の引き金となり得ます。
入社前の情報不足と企業側の説明責任
採用選考段階における企業側の情報開示が不十分であったり、逆に良い面ばかりを強調しすぎて実態とかけ離れた説明をしていたりする場合、入社後に「騙された」と感じる社員が出てきても不思議ではありません。 仕事の厳しい側面、組織の課題、あるいは入社後に求められる具体的な役割や責任範囲などについて、入社前に正直かつ具体的に伝える努力を怠ると、結果として社員の不信感を招き、早期離職のリスクを高めることになります。

このように、早期離職の背景には「ちょっとした違和感」の積み重ねがあることも多く、社員が「この会社で働き続ける意味を見出せない」と感じた時、離職という決断に至るのです。

離職コストを大幅削減!明日からできる採用戦略と定着支援策

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ここまで見てきたように、社員の離職は、目に見える金銭的コストだけでなく、組織の士気や生産性の低下、さらには企業ブランドに至るまで多岐にわたる深刻な影響を及ぼします。

この負の連鎖を断ち切るためには、「辞めた後にどう対応するか」という対処療法ではなく、「そもそも辞めさせないために、入社前から入社後にかけてどのような戦略を講じるべきか」という根本的な予防策に注力すべきです。
特に、入社後数年以内の「早期離職」を防ぐためには、採用の入り口段階から「定着」をゴールに見据えた緻密な設計と、入社後のきめ細やかなフォローアップ体制の構築が不可欠です。

ここからは企業が具体的に実践できる対策を、【採用段階】と【入社後】の2つのフェーズに分けて、具体的なアクションプランと共に解説します。

【採用段階】ミスマッチを防ぎ、定着を見据えた採用戦略

早期離職の最大の原因の一つが、入社前の期待と入社後の現実との間に生じる「ミスマッチ」です。「仕事内容が想像と違った」「職場の雰囲気にどうしても馴染めない」――こうした入社後のギャップは、社員のモチベーションを著しく低下させ、早期の離職願望へと直結します。
この致命的なミスマッチを未然に防ぎ、「この会社で長く働きたい」と思える人材との出会いを実現するために、以下の戦略が極めて有効です。

RJP(Realistic Job Preview)の活用

RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)とは、求職者に対して、仕事の魅力ややりがいといったポジティブな側面だけでなく、実際に働く上で直面するであろう困難や厳しさ、泥臭い部分も含めた「ありのままの姿」を正直に開示する採用コミュニケーションの手法です。

一見、「ネガティブな情報を伝えたら応募者が減ってしまうのでは?」と懸念されるかもしれません。しかし、RJPには以下のような強力な効果があり、結果として定着率向上に大きく貢献します。

ワクチン効果
事前に仕事の厳しい側面を知ることで、入社後に同様の状況に直面しても、「聞いていた通りだ」と冷静に受け止め、乗り越えやすくなります。
セルフ・スクリーニング効果
候補者自身が「この仕事は自分に合っているか」「この環境で頑張れそうか」をより現実的に判断できるようになり、ミスマッチを自ら回避する動きが期待できます。
信頼関係の構築
企業が包み隠さず情報を開示する姿勢は、候補者からの信頼感を醸成し、「誠実な会社だ」というポジティブな印象を与えます。

【実践例】

  • 求人票や説明会で、繁忙期の残業時間や休日出勤の可能性、厳しいノルマの存在などを具体的に伝える。
  • 選考過程で、現役社員に「仕事で大変だったこと」「入社前のイメージとのギャップ」などを率直に語ってもらう場を設ける。
  • 職場見学やインターンシップを通じて、実際の業務風景や職場の雰囲気を肌で感じてもらう。

「情報を正直に開示することで、かえって企業の誠実さが伝わり、自社に本当にマッチした人材からの応募が増えた」という事例は少なくありません。短期的な応募者数に一喜一憂するのではなく、長期的な定着を見据えた情報提供を心がけましょう。

ダイレクトリクルーティングの活用

ダイレクトリクルーティングとは、企業が求人媒体に広告を掲載して応募を待つ「待ち」の採用ではなく、企業自らがデータベースやSNSなどを活用して、求める人物像に合致する候補者に直接アプローチする「攻め」の採用手法です。

この手法は、特に以下のような点でミスマッチ防止と定着率向上に貢献します。

ターゲット精度向上
企業が主体的に「この人が欲しい」という明確な基準で候補者を探し出すため、自社の文化や価値観にフィットする可能性の高い人材と出会いやすくなります。
相互理解の深化
カジュアル面談などを通じて、選考の早い段階から候補者と企業が対等な立場でフランクにコミュニケーションを取ることができ、お互いの理解を深められます。これにより、候補者側の「こんなはずじゃなかった」という入社後のギャップを効果的に減らすことができます。
企業の魅力直接伝達
企業のビジョンや働く魅力、社風などを採用担当者や現場社員が直接候補者に伝えることで、より熱意のこもったメッセージが届きやすく、候補者の入社意欲を高めることができます。

ダイレクトリクルーティングは、採用担当者の工数がかかるという側面もありますが、質の高い母集団形成とミスマッチの低減という点で、長期的に見れば非常に効果の高い戦略と言えるでしょう。

【入社後】エンゲージメントを高め、定着を促進する環境づくり

どれほど採用段階でミスマッチを防いでも、入社後の受け入れ態勢や職場環境が整っていなければ、社員は「この会社に居場所がない」、「自分の価値観と合わない」と感じ、早期離職に至ってしまう可能性があります。

特に近年は、賃金や待遇といった外的要因だけでなく、「組織とのつながり(エンゲージメント)」「仕事への誇り」「成長実感」といった内的要因が、社員の働きがいや定着意欲を大きく左右するようになっています。

社員一人ひとりが「この会社で頑張りたい」「この仲間たちと成長したい」と心から思えるような、エンゲージメントの高い組織文化を醸成することが、定着率向上の鍵となります。

オンボーディング:早期戦力化と安心感の醸成

オンボーディングとは、新入社員が組織にスムーズに溶け込み、早期に戦力として活躍できるようになるまでの一連の計画的かつ継続的な受け入れ・定着支援プロセスです。単なる数日間の初期研修で終わるのではなく、入社後数ヶ月から1年程度の期間を見据えた長期的なサポートを指します。

効果的なオンボーディングは、新入社員に以下のようなポジティブな影響をもたらします。

心理的安全性の確保と安心感の醸成
上司や同僚、メンターからの定期的な声かけやサポートがあることで、「自分は歓迎されている」「困ったときには助けを求められる」という安心感が生まれ、孤独感や不安を軽減します。
企業文化への早期適応と共感の促進
企業の理念やビジョン、行動指針、社内ルールなどを丁寧に伝えることで、新入社員が組織の価値観を理解し、共感しやすくなります。
早期のパフォーマンス発揮と自走力の向上
明確な目標設定、役割の付与、そして適切なフィードバックを通じて、新入社員が早期に業務で成果を出し、主体的に行動できるようになることを支援します。

具体的なオンボーディング施策としては、歓迎ランチ会、メンター制度の導入、定期的な1on1ミーティング、目標設定と進捗確認、部門紹介、社内SNSの活用など、多岐にわたります。重要なのは、新入社員を”放置”せず、組織全体で温かく迎え入れ、成長をサポートする姿勢を示すことです。

エンゲージメント向上のための具体的な施策:社員との絆を深める

オンボーディングと並行して、既存社員も含めた全社員のエンゲージメントを高めるための継続的な取り組みも不可欠です。多くの企業で実践され、効果を上げている代表的な施策をご紹介します。

メンター制度の充実
新入社員だけでなく、若手社員やキャリアチェンジした社員に対しても、経験豊富な先輩社員が相談相手となり、業務面だけでなく精神的なサポートも行うことで、孤独感を解消し、成長を促進します。
質の高い1on1ミーティングの定着
上司と部下が定期的に1対1で対話し、業務の進捗確認だけでなく、キャリアの悩み、人間関係、体調面など、部下が抱える様々な課題や想いを丁寧に傾聴し、フィードバックやサポートを行うことで、信頼関係を構築し、早期の課題発見・解決に繋げます。
企業理念・ビジョンの浸透と共感醸成
経営層からのメッセージ発信、社内イベントやワークショップを通じて、企業の存在意義や目指す方向性を社員と共有し、共感を育むことで、「この会社で働くことの意義」を社員一人ひとりが実感できるようにします。
オープンで風通しの良いコミュニケーション環境の構築
定期的な社内アンケートの実施とフィードバック、部署横断のプロジェクトや社内サークル活動の推奨、フリーアドレス制の導入など、社員同士が気軽に意見交換でき、部門の壁を越えて協力し合えるような風通しの良い職場環境を作ります。
公正な評価制度とキャリア開発支援
透明性の高い評価制度を運用し、社員の頑張りや成果を正当に評価・処遇することで、納得感を高めます。また、研修制度の充実、資格取得支援、社内公募制度などを通じて、社員の自律的なキャリア開発を積極的に支援します。

これらの取り組みは、一朝一夕に成果が出るものではありません。しかし、社員一人ひとりと真摯に向き合い、エンゲージメントを高めるための努力を継続することが、結果として「辞めない組織」「社員が誇りを持って働ける組織」へと繋がり、離職コストの削減という大きな果実をもたらすのです。

まとめ|「選ばれ続ける組織」への変革

本記事では、社員1人の離職が企業にもたらす想像以上の「コスト」の実態(内訳や計算方法)から、その損失を未然に防ぐための具体的な採用戦略と入社後の定着支援策に至るまで、詳しく解説してきました。

改めて強調したいのは、社員の離職に伴うコストは、単に求人広告費や研修費といった直接的な費用に留まらないということです。在籍期間中に支払われた人件費、後任者が見つかるまでの機会損失、そして何よりも、組織全体の士気低下や貴重なノウハウの流出、企業ブランドの毀損といった「見えざるコスト」まで含めると、その総額は1人あたり数百万円規模に達することも決して珍しくありません。

特に、期待を込めて採用・育成した人材が短期間で去ってしまう「早期離職」は、企業にとって投資が回収できないまま損失だけが残る、まさに深刻な経営課題と言えるでしょう。

だからこそ、「辞めた後にどうするか」ではなく「そもそも社員が辞めない、辞めたくないと思える組織をいかに創り上げるか」という能動的な視点へと転換することが、今こそ求められています。

そのために、本記事でご紹介したように、

  • 【採用段階】では、RJP(Realistic Job Preview)の徹底やダイレクトリクルーティングの活用により、入社前の「こんなはずじゃなかった」というミスマッチを限りなくゼロに近づける努力を。
  • 【入社後】では、効果的なオンボーディングプログラムの実施や、継続的な1on1ミーティング、キャリア開発支援などを通じて、社員一人ひとりのエンゲージメントを高め、「この会社で成長したい」「この仲間と共に貢献したい」という内発的な動機を育む環境づくりを。

これらの取り組みは、決して一朝一夕に成果が出るものではありません。しかし、離職によって失われる莫大なコストを考えれば、社員の定着率向上に向けた投資は、間違いなく企業にとって最も賢明な投資の一つと言えるはずです。

社員が定着し、活き活きと働く組織は、生産性が向上し、イノベーションが生まれやすくなり、結果として企業の持続的な成長へと繋がっていきます。離職による損失が大きいということは、裏を返せば、社員1人が定着し活躍することが、企業にとってどれほど大きな価値を生み出すかを示しているのです。

ぜひ本記事を、貴社が直面する「離職コスト」の現状を再認識し、それを未然に防ぐための具体的なアクションプランを策定・実行する上での指針としてご活用ください。そして、社員から「選ばれ続ける組織」への変革に向けた、力強い一歩を踏み出していただけることを願っています。

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